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平成27年1月1日より所得税と相続税の増税が行われる一方で、法人税の減税が秒読みです。法人税減税の詳細はまだ見えてこない部分も多いのですが、外国に比べて相対的に高い法人税率の引き下げが近々に行われることはほぼ確実です。このような税制改正トレンドから、「不動産の法人化」が今後ますます注目されると考えられます。つまり不動産を法人所有とすることで、賃料収入に課税される税目を増税トレンドの所得税から、減税トレンドの法人税へチェンジし、法人税減税の恩恵をたっぷり預かろうということです。しかし、法人化は本当に節税になるのでしょうか?実際は不動産の法人化をすると相続税が急増するリスクがあるということはあまり知られていません。

伝統的な相続税の節税対策として「木造アパートを建てる」という手法があります。これは相続税評価額、つまり相続税の掛け目が現預金などの金融資産よりも、不動産の方が低いという仕組みを活用しているものです。相続税評価額は国税庁の定める「財産評価基本通達」によって算定されますが、現預金は時価がそのまま相続税評価になるのに対し、不動産は「貸家建付地」「貸家」など、評価減を認める計算方法が多数定められています。このような理由から、不動産は相続税評価額が時価を下回るのが通常です。そのため現預金1億円は、そっくりそのまま1億円が相続税評価額になるのに対し、1億円で購入した不動産の相続税評価額は、1億円を大きく下回ることもあります。仮に全財産が現預金1億円の父親がいたとして、このまま相続が発生すれば、相続財産の相続税評価額は1億円です。しかしこの現預金で、時価1億円、相続税評価額6,000万円の不動産を購入すれば、父親の相続財産の相続税評価額は6,000万円へと下がり、相続税も少なくて済みます。このような仕組みは伝統的に知られていることです。

では不動産の法人化が相続税評価額に与える影響を考えてみましょう。父親が時価1億円、相続税評価額6,000万円の賃貸不動産を所有していたとしましょう。法人税減税の恩恵に預かろうとして、この賃貸不動産を時価の1億円で法人に売却したとします。そうすると父親の手元からは相続税評価額6,000万円の賃貸不動産が消滅して、代わりに相続税評価額(=時価)1億円の現預金が入ってきます。そうすると法人化前後で、父親の財産の相続税評価額は4,000万円上昇していますから、法人化直後に相続が発生すると、想定を上回る相続税が発生することがあるのです。これが不動産法人化の逆節税効果です。

しかしだからと言って不動産法人化が悪と考えるのは尚早です。法人化のメリットは所得税の節税だけではありません。不動産を個人所有していると、相続の度に共有者が増加することがあります。そうすると共有者間で人間関係の不仲が発生したり、共有者の中に認知症になる人が現れて、管理処分等の意思決定が困難になることがあります。不動産を法人所有としておけば、株主総会決議でほとんどの意思決定が可能ですし、社長が認知症になれば別の人に社長を交代させてしまえば良いわけですから、このような問題には力強い効果を発揮するのです。

結局のところ、いかなる対策にもメリットとデメリット、そしてリスクがあります。十分に情報収集をして、しっかりと判断することが重要です。