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今回は、平成29年8月30日の東京地裁判決を紹介していきます。

1 相続直前に被相続人が所有していたA社株式を売却

A社の代表取締役であった被相続人庚は、所有していたA社株式のうち72万5000株を平成19年8月1日に1株当たり75円(配当還元方式)、総額5,437万5,000円でB社に対して譲渡しました。なお譲渡時点でのB社の株主は庚とは血縁関係のない、A社の役員及び従業員のみでした。その後、庚は平成19年12月に死去しました。

2 低額譲渡取引と認定

この取引について鶴見税務署長は、譲渡対価はその時におけるA社株式の価額(1株当たり2505円(類似業種比準方式))、総額18億1,612万5,000円の2分の1に満たないから、本件株式譲渡は所得税法59条1項2号の低額譲渡に当たるとして所得税の更正処分をしました。

3 原告は独立第三者間取引であり、配当還元方式が合理的と主張

これに対して原告である庚の相続人は、本件取引は独立第三者間取引であること、B社にとって、本件株式の実質的な経済的価値は配当への期待のみであり、本件株式の価額は配当還元方式による1株当たり75円が適切であると主張しました。これに対して東京地裁は「本件株式譲渡が(譲受人である)B社にとって不合理な取引であったとはいえない」としつつも(譲渡人である)庚の側から見れば、あえてその有するA社株式のうちの一部のみを(非常に安価な)配当還元方式による評価額でB社に対して譲渡したことは、相続税の負担を軽減する等の目的以外には考え難く、通常の取引としての合理性には乏しいものといわざるを得ないとしました。

4 譲受人から見た価値と、譲渡人から見た価値が違う

これは経営支配権のない少数株主から見た株式の価値と、経営支配権のある支配株主から見た株式の価値が異なるという現象から生じる議論です。すなわちB社は本件取引により庚からA社株式72万5,000株を譲受けても経営支配権を確保するには至らず、所有していても配当への期待くらいしかメリットがありません。これに対して譲渡直前の庚はこの72万5,000株を含めて多くのA社株式を所有しており、大株主かつ代表取締役としてA社を実質的に支配してきました。そうすると庚にとってのこの72万5,000株は経営支配権そのものですから、非常に大きな価値があります。それぞれの立場から見たA社株式の価額を国税庁通達により評価すると、B社から見たA社株式の価額は1株当たり75円なのに対し、庚から見たA社株式の価額は1株当たり2,505円だったというわけです。つまりB社から見ると75円の価値しかないから、この金額で譲り受ける取引は合理的だが、庚から見ると2,505円もの価値があるものを75円で譲渡する取引は不合理ということです。では所得税はどちらの価額を持って考えたらよいのでしょうか。

5 所得税は「(譲渡直前の)譲渡人にとっての価値」で考える

所得税はキャピタルゲインを得た譲渡人、本件で言えば庚(注:実際は確定申告前に死去したのでその相続人)に課される税ですから(納税義務者である)「(譲渡直前の)譲渡人」すなわち庚にとっての価値である1株2,505円を基礎に考えるということになります。従って1株75円で行われた本件取引については所得税法上の低額譲渡取引に該当するとして、国税当局側の主張が全面的に認められました。

仮にこれが財産を取得した者に課される税である相続税であれば(納税義務者である)「(相続後の)相続人」にとっての価値を基礎に考えることになります。同じ時点のA社株式の価値であっても、所得税法と相続税法で趣旨・目的が異なるため、考え方がまるで異なることが特徴です。税法と言うのはこのように非常に複雑な仕組みをしていますが、相続・事業承継対策を考える上では、必ず理解しておく必要があるポイントでしょう。

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