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近年、非常に大きなニュースとなっているのが競馬の外れ馬券の購入費用が必要経費となるか、ということです。この点、先般行われた裁判では、外れ馬券の購入費用も必要経費に該当するとして、納税者勝訴の判決が出ましたが、今度は北海道で同じような課税処分が行われたと耳にしました。この裁判は一体、何が大きな問題となっているのでしょうか。

この問題の背景には、国税庁の通達において、競馬の払戻金を「一時所得」としている、という事情があります。「一時所得」には、賞金など偶発的かつ特殊な所得が該当するとされています。一時所得の場合、その所得の金額は、収入金額に直接必要な支出だけを控除できるとされていますので、払戻金がない外れ馬券の購入費用は、収入金額に直接関係ないとされて必要経費にならない、という取扱いが国税庁の通達で定められているのです。

しかし現在裁判になっている事案を見ますと、同じ競馬であっても、一時所得のような偶発的なものではなく、パソコンを活用して当たりを予想するなど、継続的な「資産運用ビジネス」と見られる規模で行われているようです。通達が出来た当時は、パソコンもソフトウエアもありませんから、馬券は1枚1枚「直感等で予想して」買うのが当たり前の時代です。しかし時代が進歩して新たな技術が出現し、素人でもコンピュータを駆使してまるで資産運用するかのように馬券が買えるようになりました。税法や通達が出来た当時には想定していなかった取引が発生するということは往々にして起こり得ます。そのような場合は、法令・通達の目的や制度趣旨に立ち返って判断するのが本来の姿です。

これらの馬券裁判において問題となっている納税者は、パソコンを使って統計学や確率論を基礎にトータルで勝ち越すように上手に組み合わせて馬券を購入して、少しずつ資産を増やしていったのです。その姿は、まるで外国のヘッジファンドのようですらあります。事実、裁判所も、このような継続性や儲けたいという営利性が見られる競馬であれば、FX投資など特定の資産運用と同じ雑所得に該当すると判断しています。なお、雑所得になると、収入金額に直接関係ない経費(例えば、取引先との打ち合わせ費用など)も控除できるとされていますので、同じ理屈で外れ馬券の購入費用も控除できる、と結論づけられるわけです。何より今回の事案では、外れ馬券を必要経費として認めないと、純利益以上の所得税が課税されてしまい、納税者が一生涯かけても払いきれないほどの租税債務を負担することになってしまいます。これは常識的に考えても異常と言わざるを得ません。実際のところ、当局は現在も一時所得と雑所得の境界をこのような営利性や継続性から見る、と説明しているのですから、通達を棒読みして杓子定規に課税処分をするのではなく、制度趣旨や目的に立ち返って判断すべきなのではないでしょうか。

国税当局は闇雲に通達を杓子定規に適用するのではなく、時代の変化や常識に沿った判断をしてもらいたいところです。