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グローバル経済が進む昨今、海外に子会社を作ることも珍しくはなくなりました。この、海外子会社の設立に関して、今大きな問題となっているのは、海外子会社が「ハイブリッド事業体」に該当するケースにおける課税関係です。

「ハイブリッド事業体」とは、海外の法律においては法人格を有するものの、法人ではなく法人の株主に課税が行われる法人をいい、代表例はアメリカのLLCです。つまりハイブリッド事業体が100の利益を得た場合、ハイブリッド事業体に法人税を課税するのではなく、その株主が100の利益を得たものとして株主に課税するというものです。日本で同じように課税が行われるものとして「民法上の組合」がありますが「民法上の組合」には法人格が無いという点が大きな相違点です。LLCは、法人格を持っていますので、取引の主体となることが出来ます。その一方で、法人税が課税されず、株主に直接課税されるという点で、まさに「良いとこ取り」をした大変便利な組織形態なのです。ちなみに日本の法律上は、ハイブリッド事業体に相当する組織形態は認められていません。

ハイブリッド事業体を巡る課税関係が問題になるケースの代表例は、ハイブリッド事業体が損失を計上した場合です。この場合、海外の法律では、株主はハイブリッド事業体の損失を、自分自身の損失として自分の他の所得と通算することができます。ここで、株主が日本の居住者である場合、日本の法人税法上や所得税法上も外国における税金の計算と同様、株主はその損失を自分の他の所得と通算できるか、ということが問題になります。

この点、かなり多くの裁判例がありますが、代表的なものとして、アメリカのLLCを使って中古建物に係る不動産投資を行い、その中古建物の減価償却費を不動産所得の計算上生じた損失金額として、損益通算を行って所得税の申告を行った個人株主に対する課税事案があります。この課税事案において、日本の国税当局は、LLCは法人であり、法人であれば、日本の課税関係においては配当がない限り株主に課税はなく、かつ、法人の損失を株主の損失とすることはそもそもできない、としてその株主の損益通算を全面的に否認しました。この裁判例では、当局の主張が全面的に認められています。つまりアメリカと日本で180度異なる課税関係になることになってしまったのです。

このような裁判例が起こるのは、ハイブリッド事業体の取扱いが日本の法律では明確ではないからです。このような事故が1度発生すると、今度はアメリカのLLC以外のハイブリッド事業体に投資した場合の課税関係は一体どうなるのかという悩みが出てきます。考え方として、日本の居住者は全世界の所得に対して課税がなされる以上、税金の計算においてはあらゆる取引を日本の法律に即して考えなければならない、というポイントが挙げられます。このため、海外における課税の考え方が、そのまま日本でも適用されると安易に判断することはできず、そのハイブリッド事業体が日本において設立されるとした場合、日本の法律上はどのように整理されるのかということを個別に検討する必要が出てきてしまうのです。

この点、多面的に判断する必要があり、例えば以下のような基準を総合的に勘案して判断することになると考えられます。
(1)外国における法人格や(法人としての)権利能力の有無
(2)設立に伴いその商号等の登録(登記)等が行われるか否か
(3)自らが訴訟の当事者等になれるといった、法的主体となれるか否か
(4)株主と別個の法的主体と見られるか否か
こうなるとケースバイケースで判断をすることになり、実務上非常に煩雑な処理が必要になります。困ったことに、海外と言っても100を超える国や地域があるわけで、ハイブリッド事業体もそれぞれの国の法律によって千差万別です。ハイブリッド事業体の取り扱いついて、早急にわかりやすい制度設計が求められます。