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1.小規模宅地等の特例の目的

相続税を考える時に多くの人が関心のある「小規模宅地等の特例」ですが、最も一般的なイメージは「自宅の土地にかかる相続税は8割引」というものではないでしょうか。これを税法的には「特定居住用宅地等」という言葉を使います。しかし「小規模宅地等の特例」では自宅だけではなく「個人事業の土地にかかる相続税が8割引」になることもあるのです。こちらは「特定事業用宅地等」と呼ばれます。

なぜ自宅だけではなく、個人事業の土地についてまで、小規模宅地等の特例が受けられるのでしょうか。それを理解するためには、小規模宅地等の特例が存在する趣旨や目的を知る必要があります。国は人が生きていくのに絶対に必要なものとして「家」と「仕事」があると考えています。自宅や個人事業の土地にまともに相続税を課税してしまうと、相続人が納税のためにその土地を売却することになり、結果として相続税が「家」や「仕事」を奪ってしまう恐れがあるのです。確かに相続税も大事ですが、そのために「家」や「仕事」を失うことになったら、相続人は生きていくことができなくなってしまうかもしれません。そのようなことが極力起きないようにするために、救済策を設ける必要があるというのが小規模宅地等の特例の趣旨・目的です。なので自宅だけでなく、個人事業の土地についても小規模宅地等の特例が受けられるようにし、相続税を軽減しているのです。

2.小規模宅地等の特例における「事業の用」とは何か?

「特定事業用宅地等」と認められるには、その土地が個人事業のために使われていると認められる必要がありますが、これには意外な落とし穴があります。税法では「事業の用に供されていた」という言葉を用いますが、これは俗っぽい言い方をすれば「その土地を使って金儲けをしていた」ということを意味します。つまりその土地を活用して町工場やラーメン店などを経営していれば「事業の用に供されていた」ということになります。この考え方は、所得税の事業用資産の買換え特例などでも登場してきます。

ここで注意すべき点は、逆に「金儲けに使っていなかった」場合は、小規模宅地等の特例を受けられないということです。典型的な要注意事例として、オーナー個人が土地・建物を所有していて、事業そのものは法人経営の形態で行われているようなケースがあげられます。このようなケースでは、オーナー個人がその法人から地代や家賃をとっていないことが多く見られます。そうすると「事業=金儲け」をしているのは法人であって、オーナー個人は全くその土地から収入を得ていませんから、金儲けをしていないということになります。そうすると、この土地はオーナー個人から見て「事業の用に供していた」とは認められず、使えると思っていた小規模宅地等の特例が使えないという問題が発生することがあるのです。土地の場所が地価の高い銀座のような場所だったら、それだけで相続税の額が何千万円場合によっては何億も違ってくる可能性があります。資産税はちょっとしたことで、大きく負担が変わるので注意が必要です。