法人税や相続税の税務申告において、不動産鑑定評価を参考資料とすることは決して少なくありません。不動産鑑定士は不動産のプロフェッショナルであり、不動産鑑定評価基準に基づいた鑑定評価は、時価として合理的であると誰もが当然に考えるでしょう。しかし、税務申告においては必ずしもそうではありません。鑑定評価が税務調査によって否認され、多額のペナルティが発生することも珍しくないのです。
平成25年5月28日付の裁決事例を見て行きましょう。関東信越国税局管内の、ある産業廃棄物処理会社(以下「A社」)は、平成20年6月に土地及び建物を1億5,600万円で第三者から売買で取得しました。その後、平成22年5月に土地に関する検査をしたところ、土壌汚染が発見されたとして、不動産鑑定士に鑑定評価を依頼しました。不動産鑑定士は土壌汚染があることを前提として、平成22年9月に土地及び建物の鑑定価額を9,040万円とした不動産鑑定評価書を発行しました。
不動産鑑定評価書を入手したA社は、鑑定評価額の9,040万円で、グループ会社に当該不動産を売却し、(減価償却後の)帳簿価額との差額5,930万円を譲渡損失として損金に計上し、他の課税所得と相殺したのです(※当時はグループ法人税制施行前であるため、100%親子・兄弟会社間の取引でも譲渡損失が計上できたのです)。当時の法人税等の税率を考えると、不動産をグループ会社間で右から左へ移しただけで、少なくとも2,000万円以上の法人税を減らしたことになります。
これに対して関東信越国税局は税務調査において、土壌汚染の調査はボーリング等のきちんとした手法によっておらず、土壌汚染の存在は認められないとして、譲渡損失の損金算入を認めませんでした。A社は不服申し立てをしましたが、国税不服審判所では関東信越国税局の主張が全面的に認められました。
裁決書を見ていると、実に稚拙な節税策と言わざるを得ません。土地及び建物を取得してたったの2年しかたっていないのですから、本当に土壌汚染があったとしたら、私がこの会社の社長ならば騙されたと思って売り手を訴えることを考えるでしょう。土壌汚染があったから、グループ会社に売って法人税を安くしようなどとは考えないと思います。顧問税理士は何も言わなかったのかなど、疑問点の多く残る内容です。
しかしこれは不動産鑑定士にとっても大きなリスクになります。A社が今度は不動産鑑定士の過失を主張して、損害賠償を請求してくる危険性も考えられるからです。土壌汚染の存在について十分に確認しなかったのは不動産鑑定士の過失であり、鑑定評価が無ければグループ会社間売買はしなかったとか、理由はいくらでもつけられるでしょう。
特に最近は税理士が訴えられるケースが急増しています。今後は不動産鑑定士も十分な注意が必要です。