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「タックス・ヘイブン税制」と言う言葉を聞いたことがありますでしょうか?タックス・ヘイブン(tax haven)とは、「租税回避地」などと訳されており、所得税や法人税などの税金が極端に安い(場合によっては無い)国などを意味します。たまにこれを「タックス・ヘブン(tax heaven=税金天国)」と勘違いしている人もいるようですが、実はこう言った言葉は存在しません。今日はこのタックス・ヘイブンを巡る日本の税制について紹介します。

タックス・ヘイブンと呼ばれる国などは世界中に存在します。典型的なのはカリブ海にある小さな島国などで、中には相続税だけでなく、法人税や所得税までゼロというところも少なくありません。税金が無いのに、学校や病院、軍隊や警察などの政府機関はどうやって維持しているの・・・・という疑問を持ってしまう人も多いでしょう。これらの国などは規模が非常に小さいので、会社を設立登記する際の手数料(日本でいうところの登録免許税)などで、十分に政府機関を維持するための収入が賄えてしまうのです。

このように税金が極端に安い国が地球上に存在すると思うと、ではどんどんタックス・ヘイブンでビジネスをやれば良いじゃないか!と、誰もが思ってしまいそうです。しかしタックス・ヘイブンの多くは非常に小さな国ですから、そこで工場を建設したり、飲食店を出店したりと言う「実業」は、なかなかビジネスになりにくいという事情もあります。でも資産運用だったらどうでしょうか?例えばタックス・ヘイブンに会社を設立して10億円を持たせて、そのお金を外銀の海外支店(香港支店やシンガポール支店など)に預けて資産運用を任せるというアイデアはどうでしょうか?外銀の海外支店の運用力は、(外銀の東京支店を含む)日本国内の金融機関とは桁違いです。彼らに運用を任せてたっぷりと利子・配当を得ておいて、しかもそれに対して税金を全然払わなくても良いということになると、日本の資産家は我先にとカリブ海に子会社を設立して資産運用をするようになり、運用益に対しては税金を1円も納めないということにもなりかねません。

そんな安易な節税を防止する制度が日本には存在します。それは「タックス・ヘイブン税制」と呼ばれます。日本の会社がタックス・ヘイブンに子会社を設立して、そこで投資をすることを考えてみます。例えば法人税が存在しないカリブ海の小さな島国に子会社を設立して10億円持たせて、その子会社が外銀のシンガポール支店に運用を任せて1年間で1億円の所得を得たとします。この1億円の所得に対しては、まずはカリブ海の島国の税法が適用されますから、法人税はゼロと言うことになります。ここまでだと日本の金融機関の10倍以上の利回りがあって、かつ運用益に対して税金を1円も支払わなくて良いということになってしまいます。

このようなことが起きないように日本政府は「タックス・ヘイブン税制」という制度を作りました。つまり子会社がタックス・ヘイブンで1億円の投資収益を得た時点で、それは日本の親会社が所得を得たとみなして、親会社に日本の法人税を課税しましょうということにしたのです。つまりこの場合は日本の法人税率が地方税を合わせて35%であれば、3,500万円の法人税を日本政府に支払ってくださいねというのがタックス・ヘイブン税制の大まかな仕組みです。つまりタックス・ヘイブンで得た投資収益については、きちんと日本政府に申告をして、法人税を納付する義務があるのです。「聞いてないよー」と思われるかもしれませんが、こうしないとカリブ海の島国などを使った「行き過ぎた節税策」が横行する可能性がありますから、日本政府の立場からすると当然と言えば当然です。この「タックス・ヘイブン税制」は個人にも適用されますから、個人がタックス・ヘイブンに子会社を設立して資産運用をしたとしたら、その子会社の得た投資収益は、株主である個人の所得として、日本政府に所得税を申告し、納付する義務が出てくるのです。

もう一つ注意しなくてはいけないのが、日本政府を含む各国政府は「タックス・ヘイブンに『悪いお金』を隠している人間が多い」という認識を持っていることです。実際に外国のテロリストやマフィアが「人殺し」や「麻薬の密売」などで得たお金をタックス・ヘイブンに隠しているようなケースが非常に多いと言われています。仮にこのような反社会的勢力では無くても、日本の資産家がタックス・ヘイブンにお金を隠していたら、それは「脱税」という立派な犯罪ということになります。なぜならばタックス・ヘイブンにおいてある金融資産が生む利子・配当は、「タックス・ヘイブン税制」により、原則として毎年日本政府に申告をし、法人税(個人であれあ所得税)を納める必要がありますから、何も申告をしていなければ、毎年「申告漏れ」をしているということになるのです。増して、親が亡くなった時の相続税の確定申告から、これらの資産を漏らしたとしたら・・・。場合によっては「刑務所行き」ということにもなりかねません。

圧倒的な運用力を持つ外銀の海外支店に資産運用を任せるのは構わないのですが、税金はルール通りに納めるのが当然です。帳簿をつけて運用資産を管理し、投資収益についてはきちんと税法に従って申告・納付するという姿勢が重要です。知らなかったでは済まされないことも多いですから、特に海外がからむ税金については専門家に相談して、きちんと進めることが必要です。