昭和30年代・40年代に建築された建物の築年数は、そろそろ40年~50年となります。建物自体の老朽化に加え、外観や内装のデザインも時代遅れとなり、空室がなかなか埋まらず苦労している不動産オーナーも少なくないのではないでしょうか。その建物はいずれ「解体・新築」をするしか選択肢は無いのでしょうか?実際は躯体さえしっかりしていれば「リノベーション」という有力な選択肢があります。「リノベーション」とは、簡単にいうと既存の建物を解体せずに躯体は残して、それを手直しして再生しようというものです。「リノベーション」は資源の無駄使いをしないというメリットももちろんあるわけですが、公認会計士のような財務のプロから見ても、非常に魅力的な一面を持っています。
例えば築50年で、稼働率0%の空きビルがあるとします。建物オーナーは借入金によって再投資をし、再び賃貸することを検討しているとします。「解体・新築」をするとコストが1億円かかる一方で、毎年1,000万円の家賃が見込めるとします。これに対して「リノベーション」はコストが3,000万円かかり、それにより毎年の家賃が900万円入ると見込めるとしましょう。果たしてどちらが投資として有利なのでしょうか。
一見「解体・新築」をすると1,000万円もの家賃が入ってきて、とても良いように思えますが、実はそうでもありません。仮に諸経費や税金等が賃料収入の半分だと大雑把に仮定すると、毎年手元に残るお金は500万円です。この数値例だと単純計算でも投資額の回収、すなわち賃料収入で元を取るのに1億円÷500万円=20年かかります。
これに対して「リノベーション」は、回収期間が短いのが特徴です。賃料収入900万円の半分が手元に残るとすると、毎年手元に残るお金は450万円です。この場合、単純計算で3,000万円÷450万円≒6.7年で元をとることができます。この「税引後家賃の何年分で投資回収できるか(=元を取れるか)」ということを「投資回収期間」と言います。具体的に何年かということはケースバイケースですが「リノベーション」は、ほとんどの場合「解体・新築」に比べて「投資回収期間」が短いのが非常に特徴的です。
「投資回収期間」が短いということは、投資判断において、大変重要な話です。例えば過去において、日本ではオイルショックやバブル崩壊、リーマンショックや東日本大震災と言った、想定外の経済変動等は何度も起きました。このような想定外の経済変動等によって、賃料相場や不動産価額が大幅に下落したこともありました。いつどのような想定外の経済変動等が起きるかの予測は、遠い未来になるほど困難です。例えば今から20年前というと1995年(平成7年)です。1995年(平成7年)に、20年後の2015年(平成27年)までにあった様々な想定外の経済変動等を正確に予測していた人間が果たしているでしょうか?超一流の経営者であっても、まず不可能と言って良いでしょう。
つまり「投資回収期間」が超長期に渡る「解体・新築」は、元が取れる前に想定外の経済変動等が起きる可能性も相対的に高く、その内容次第では大幅な投資損失も十分に考えられるということです。それに対して「リノベーション」は短期間で元をとってしまうことが出来ますから、元を取った後に何かが起きたとしても、多額の投資損失という事態は避けられる可能性が高いのです。投資はリスクとリターンのバランスで常に考える必要がありますから、たとえ表面的な賃料は少なくても、それに見合うほどリスクが低い投資であれば、それは優れた投資ということが出来るのです。「リノベーション」は多くの場合、リスクとリターンのバランスが「解体・新築」に比べて非常に良いですから、財務のプロである公認会計士の眼には、大変魅力的に映るのです。特にアメリカ、イギリス、フランスなど、欧米の国々では従来より新築をするケースは少なく、中古建物をリノベーションして長期に使い倒すというのがむしろ当たり前です。
ただ「リノベーション」の技術は、弁護士や公認会計士、税理士のような士業と同じく、会社毎の実力差が相当にある分野です。全てにおいて言えることですが、優れたパートナーに出会うための情報収集こそが、不動産オーナーの大事な仕事ということになります。