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平成29年10月のKPCレポートは、平成28年6月6日の国税不服審判所における裁決事例を紹介していきます。

1 事案の概要

審査請求人(以下「請求人」)は、被相続人の居住していたマンション(以下「当該マンション」)の敷地権を相続により取得し、小規模宅地等の特例(以下「本件特例」)を適用して相続税の申告をしたところ、原処分庁が、請求人は、相続開始時から相続税の申告期限まで当該マンションに居住していたとは認められないから、上記特例を適用することはできないとして、相続税の更正処分及び過少申告加算税の賦課決定処分をしたため争いとなりました。

2 審判所の判断

請求人は、本件相続の開始前から本件申告期限まで引き続き当該マンションに居住していることから、本件宅地は租税特別措置法69条の4第3項第二号イに規定する「特定居住用宅地等」に該当し、本件特例を適用することが出来ると主張しました。

しかし原処分庁は、以下の事実認定等から、請求人は本件相続の開始時から本件申告期限まで引き続き当該マンションに居住しているとは認められないから、本件特例を適用することはできないと主張しました。

・本件相続の開始後から本件申告期限までの当該マンションでの電気、ガス、水道等の各使用量と、請求人の住民票所在地(当該マンションとは別)における各使用量とを比較すると、後者の方が大きく上回っている。

・本件相続の開始時から本件申告期限までの間、請求人以外に当該マンションと住民票所在地で生活する者はいなかった

・請求人が住民票所在地から当該マンションへ転居した理由は、本件被相続人の介護であったことからすれば、本件相続の開始後において、請求人が当該マンションでの居住を継続する合理的な理由はない。

国税不服審判所は上記の事実認定等から、本件の相続の開始時から本件申告期限までの間の請求人の生活の拠点は当該マンションではなく、住民票所在地にあったと認定し、原処分庁の主張を全面的に認めました。

3 小規模宅地特例の注意点

租税特別措置法69条の4第3項第二号イには「相続開始時から申告期限まで引き続き・・・当該建物に居住していること」という要件が定められています。相続開始時に同居していても、申告期限まで当該建物に居住していないと小規模宅地等の特例の適用が受けられないということになります。条文の細かいところですが、非常に重要なポイントと言えるでしょう。また本裁決事例では「住民票所在地」が「生活の拠点」と認定されていますが、あくまでも日常生活の状況等を総合勘案して判断されるのであって、「住民票所在地」以外の場所が「生活の拠点」と認定されている事例もあることに注意が必要です。