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今回のKPCレポートは、役員退職慰労金の損金算入を巡る「平成29年7月14日裁決」を紹介していきます。

1 創業者は事業承継に伴い代表取締役を辞任したが、その4年後に再度就任

A氏はX社の創業者であり、昭和41年7月に代表取締役社長に就任しました。A氏は平成23年5月に事業承継に伴い代表取締役を辞任しましたが、代表権のない取締役会長としてX社に残りました。X社の取締役はA氏、A氏の長女のB氏と、B氏の夫であるC氏の3名となりました(代表取締役はB氏)。X社は平成23年5月20日、臨時株主総会を開き、分掌変更に際しA氏に退職慰労金を支給することを決議し、同月26日に支払いました。

ところがその後、C氏が問題を起こして取締役を解任されたことなどから、A氏は退職から4年後の平成27年7月に代表取締役に再度就任しました。

 

2 税務調査の結果、退職慰労金の損金算入が否認

原処分庁は税務調査の結果、分掌変更に伴いA氏に対し退職慰労金として支給した金員について、A氏は分掌変更後も経営上重要な業務を担い、取締役会長として経営上主要な地位を占めており、その役員としての地位または職務の内容が激変し、実質的に退職したと同様の事情にあったとは認められないから、金員は退職所得ではなく、損金の額に算入されない役員給与であるとして法人税の更正処分などを行ったため争いになりました。

 

3 X社の主張

これに対してX社はA氏は分掌変更により、財務面、営業面、人事面、生産面における権限を全てB氏、C氏らに移譲し、仕事の量、質、内容が大幅に縮小または変更しており、またAは分掌変更に伴い金融機関との間の個人保証を解除し、役員給与をそれまでの半額以下に減額していることから、その金員は退職給与ないし退職所得であるとして、処分の取消しを求めました。

 

4 審判所の判断

まず審判所は「A氏は分掌変更に際して、各取引先に挨拶状を送付して社長を辞任し会長に就任した旨を周知し、また、分掌変更の後、取引先との取引価格の決定や金融機関との折衝、従業員の人事に関する権限を他の役員や従業員に徐々に移譲した」ことや「A氏の平成23年7月分の給与も改定前の平成23年6月の給与に比べて約55%減少しているから、役員の地位や職務につき相応の変動が生じたと認められる」としました。

しかし「分掌変更後もA氏は数年にわたりトラブル解決のために事業所周辺の住民などに金員を支払うことをX社の代表取締役や取締役に相談することなく決定していたこと」や「取締役会において、B氏の代表取締役の任期満了に伴う代表取締役の選任および役員給与の変更についてB氏やC氏と共に決定したり、経営会議において数千万から1億円超にもおよぶ事業用資産の購入を決定しており、X社の事業および人事に関する重要な決定事項に関与していた」ことなどから、A氏は「X社の事業に関する重要な意思決定およびその執行の一部を行って」おり「分掌変更により役員としての地位または職務の内容が激変しておらず、実質的に退職したと同様の事情があったとはいえず、金員は法人税法上の損金算入することができる退職給与に該当しない」としてX社の主張を退けました。

 

事業承継においては先代経営者が、退職金を受領した後にも会社に取締役や監査役などとして残る場合が少なくありません。そのような場合は実質的に退職したのと同様の事情があったとはいえない」として、役員退職慰労金の損金算入が否認される税務リスクが伴います。しかし役員としての地位又は職務の内容が「激変」しているから役員退職慰労金の損金算入が認められる場合と「相応の変動が生じた」に過ぎないから損金算入が認められない場合との境界線がどこにあるかなど、その判断基準は高度に専門的かつ実務的です。方針決定にあたっては専門家も踏まえて慎重に検討しましょう。