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 今回のKPCレポートは、請求人が相続により取得した「貸宅地」の価額について、財産評価基本通達(評価通達)25《貸宅地の評価》の定めに従って評価した価額により相続税の申告をした後に、当該土地の売却価格(売買価格)を時点修正した価額により評価すべきであるとして更正の請求をしたところ、原処分庁が、更正をすべき理由がない旨の通知処分をしたことから争われた、国税不服審判所の平成30年1月4日裁決事例を紹介していきます。

1 当初申告

 請求人は遺言公正証書による遺言により、被相続人の相続財産の全てを取得しました。相続財産の中には、建物所有の目的で賃貸され、その上に各借地権者が所有又は共有する建物が建築されている土地(以下「貸宅地」という)が多くありました。
 請求人は、これらの「貸宅地」を財産評価基本通達25《貸宅地の評価》の定めに従って合計2億1,908万9,335円と評価し相続税の申告をしました。※相続発生日はマスキングにより読み取れず。

2 「貸宅地」の売却と「更正の請求」

 請求人は、平成26年12月25日、「貸宅地」を9,800万円で本件買受人(以下「底地買取業者」という)に売却しました。請求人は平成28年1月26日、「貸宅地」の価額を売買価格である9,800万円を本件相続開始日に時点修正した価額、合計8,797万1,274円として相続税の「更正の請求」をしました。しかし原処分庁は更正をすべき理由がない旨の通知処分をしたため争いとなりました。

3 国税不服審判所の判断

 まず国税不服審判所は「底地買取業者」について「不動産業を目的として設立された法人であり、底地をその所有者から買い取り、当該底地を借地権者等に売却することを事業としている。」とした上で「底地の買取りを事業として行っていることから、買い付けた底地の転売による利益を確保するために、転売時の販売価格として想定する価格の半額程度の金額をめどに買取価格(いわゆる仕入価格)を決定していた」とし、実際に「底地買取業者」が請求人から買った「貸宅地」の一部が「借地権者」に「(買取価格の)約1.5倍ないし約2.6倍の価格で売却されている」ことを確認しました。さらに国税不服審判所は、請求人は「本件各土地の売却に当たり、これを個別に各借地権者と交渉して売却することの煩わしさを回避したいと考え、一括売却を前提に、売却先を底地の買取業者としたものである」としました。その上で「本件売買価格は、請求人が底地の買取業者に対する一括売却という取引方法を選択した結果、底地の買取業者である本件買受人の仕入価格により決定されたものであり、不特定多数の当事者間での自由な取引が行われる場合に通常成立すると認められる価額を下回ることとなったものと認められる。」とし、請求人が自らの意思で、時価を大きく下回る価格(概ね半額程度で)「底地買取業者」に「貸宅地」を売却したと認定しました。そして「売買価格を時点修正した請求人主張額は、相続開始日における本件各土地の時価であるとはいえないから、請求人の主張を採用することはできない」として、原処分庁の主張を全面的に認めました。

4 裁決から読み取れる請求人のリテラシー(知識・判断力)

 ここでの本質的な問題は、請求人の主張が国税不服審判所で認められなかったことではなく、2億円以上の相続税評価額の「貸宅地」を9,800万円で「底地買取業者」に売ってしまったという事実です。確かに「底地買取業者」に売れば「個別に各借地権者と交渉して売却することの煩わしさ」を回避することはできるでしょう。しかし「貸宅地」は、専門の不動産会社に依頼して「借地権者」に売れば、相続税評価額を上回る金額で売れることも珍しくありません。何より「底地買取業者」への売却価格である9,800万円は、時価の半額程度であるということは、国税不服審判所がはっきりと認めるほど明々白々な事実なのです。
 これらの事実を正しく理解していたら、請求人は「貸宅地」を9,800万円で「底地買取業者」に売ったでしょうか?私は99%以上の確率でNOと考えます。請求人は「『底地買取業者』に売れば『借地権者』に売るよりも安くなる」ということくらいは理解していても「『底地買取業者』による買取価額は時価の半額程度であり、『借地権者』に売った場合に比べて何千万円、場合によっては1億円以上も安くなる」というところまでは理解していなかった可能性が極めて高いのです。なぜならば「各借地権者と交渉して売却することの煩わしさを回避」できるからと言って、土地を時価の半額程度で売却する人というのは常識的には考えられないからです。
 この請求人は「貸宅地」を「底地買取業者」に売るのではなく、煩わしくても「借地権者」と交渉するという選択をすれば、より多くの相続財産を残すことが可能だったにもかかわらず、自身のリテラシー(知識・判断力)が低かったうえ、正しくアドバイスしてくれる専門家もいなかったため「貸宅地」を時価を大きく下回る価額で売る結果となってしまったと考えられるのです。すなわちこの裁決事例から学べるのは、税法解釈ではなく、不動産オーナーはリテラシー(知識・判断力)を身につけなければ、情報不足によって大きく財産を失っていくことになるという現実なのです。

5 KPCレポートが「底地買取業者」の足を引っ張ることにはならない

 このようなことを書くと「底地買取業者」の方は「そんな種明かしをされたら、自分達のビジネスに悪影響が出る」という印象を持つかもしれませんが、決してそんなことはありません。もう1度、ご自身の過去の経験を思いだしてください。「底地買取業者」の皆さんに「貸宅地」を「時価を大きく下回る価額」で売ってくれた方々は、KPCレポートを熟読して熱心に勉強したり、専門家にお金を払って情報を集めようという考え方の人達でしたか?恐らく違うでしょう。「勉強しない」、「調べない」、「考えない」、「他人(特に大きな会社)の言うことを鵜呑みにする」、「専門家にお金を払わない」、すなわち「リテラシー(知識・判断力)の低い不動産オーナー」方ばかりだったでしょう。つまりKPCレポートが、いくら「種明かし」をしようとも、皆さんのターゲットクライアントである「リテラシー(知識・判断力)の低い不動産オーナー」の耳に入ることは今後も決してないのです。従ってKPCレポートが皆さんの足を引っ張るなどということは、間違ってもありえないのです。
 もっともこのKPCレポートを熱心に読んでくれている「リテラシー(知識・判断力)の高い」不動産オーナーの方々は、きちんと勉強して、しっかりと財産を守っていってください。

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