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契約のない税目についても、税理士には「信義則上の義務」がある ~委任契約は「所得税」でも、税理士に「贈与税」の損害賠償責任が認められる~
 今回のKPCレポートは、顧客に「贈与税」のリスクを説明していなかった税理士に対して損害賠償請求を認める判決が下された、東京地裁令和元年10月15日判決を紹介していきます。税理士と顧客が契約をしていたのは「所得税」でしたが、契約のない税目である「贈与税」について税理士の損害賠償責任が認められた点に注目です。

1 経緯

 被告であるA税理士は、会社経営者であるB氏と、その息子であるC氏の平成17年分から平成24年分までの「所得税」の確定申告手続を行っていました。平成19年、B氏は自身が経営している甲社の取締役を退任するにあたり、退職金として8,950万円の支給を受けることとなりましたが、甲社は資金不足のため、そのうち5,000万円が未払いとなってしまいました。平成23年、A税理士はB氏に代わって代表取締役となったC氏に対し、この未払退職金についてB氏が債務免除することを進言しました。このA税理士の進言を受けて、B氏は平成23年に3千万円、平成24年に2千万円の未払退職金債務を免除しました。

2 相続税の税務調査で、贈与税の申告漏れが発覚

 この後、B氏は平成27年7月に死去しました。平成29年に行われた相続税に関する税務調査の結果、前述の債務免除に伴い、C氏には平成23年分及び平成24年分の贈与税の申告義務があるとの指摘を受けました。これは一体、どういうことなのでしょうか。
 相続税基本通達9-2には「同族会社・・・の株式又は出資の価額が、例えば、次に掲げる場合に該当して増加したときにおいては、その株主又は社員が当該株式又は出資の価額のうち増加した部分に相当する金額を、それぞれ次に掲げる者から贈与によって取得したものとして取り扱うものとする・・・」とあり、(4)として「対価を受けないで会社の債務の免除、引受け又は弁済があった場合 当該債務の免除、引受け又は弁済をした者」とあります。

 通達の条文は難しいので、もう少しイメージで理解できるように説明します。B氏が平成23年及び平成24年に甲社に対して合計5,000万円の債務免除をしたことにより、甲社の純資産は同額だけ増加したことになります。その結果として、C氏が所有している甲社株式の1株当たり純資産も増加しますから、その価値が増加し、C氏の個人財産が増加する結果となります。そうするとB氏が債務免除をした結果、C氏の個人財産が増加したことになりますから、これについてB氏からC氏への間接的な経済的利益の移転があったとみなして、C氏に贈与税が課税されることになります。このことを条文上、明確にしたのが上記の相続税基本通達9-2(4)ということになります。C氏に贈与税の納税義務があることは明らかであったため、C氏には贈与税及び無申告加算税等が課せられてしまいました。

3 委任契約は「所得税」である以上、税理士に債務不履行責任はない

 C氏はA税理士から債務免除をすると、自身が「贈与税」を負担する必要がある旨の説明を受けていれば債務免除の方法は選択していなかったなどとし、A税理士に委任契約上の善管注意義務違反があるなどと主張しました。しかし東京地裁はA税理士との契約は「所得税」であるため「贈与税」について説明しなかったとしても、委任契約上の債務不履行による損害賠償請求は認められないという趣旨の判断を示しました。

4 税理士は信義則上の義務を履行しなかった不法行為責任がある

 その一方で東京地裁は、A税理士はB氏及びC氏の「所得税」の確定申告手続だけでなく、甲社の「法人税」の確定申告手続についても行っているため、B氏及びC氏の所得の状況だけではなく、甲社の財務状況についても把握する立場にあったという趣旨の指摘をしました。にもかかわらずC氏に対して「贈与税」が課税される可能性について明確にしなかったことについて、A税理士には信義則上の義務を履行しなかった過失があるなどとして約140万円の損害賠償請求を認めました。

5 契約がない税目についても、税理士は損害賠償責任を負うことがある

 この判決から読み取れることは、実際に顧客との契約の対象となっていない「贈与税」や「相続税」場合によっては「不動産取得税」などについてもきちんと説明していなければ税理士に損害賠償責任が認められることがありうるということになります。
 特に最近の訴訟においては、税理士の責任範囲は思ったより幅広く解釈されていますので十分な注意が必要です。

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