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令和3年10月のKPCレポートは、東京都内在住の個人が、土地をコインパーキング運営会社に貸し付けていたところ、東京都から「駐車場業」を行う者に該当するとして個人事業税の賦課決定処分を受けたことで争いになった令和3年3月10日東京地裁判決を紹介していきます。既に東京都の全面敗訴が確定しており、コインパーキング運営会社に土地を賃貸している他の個人の土地オーナーも過去の「個人事業税」の還付が受けられる可能性があります。

1.概要

A氏は平成27年3月12日、コインパーキング運営会社の甲社と「駐車場用地一時賃貸借契約書」を取り交わしました。甲社はA氏から賃借した土地をコインパーキング式の時間貸駐車場としました。なお毎月の賃料は37万8,000円でした。

これに対して東京都は、A氏が「駐車場業」を行う者に該当するとして「個人事業税」の賦課決定処分をしました。これに対してA氏は「土地を貸し付けているにすぎず、駐車場業を行っていない」などと主張したため争いになりました。

2.「個人事業税」の仕組み

「個人事業税」という税金は多くの人に馴染みが薄いでしょうから、簡単にその仕組みについて解説していきます。

「個人事業税」は都道府県が個人事業主に課する地方税です。地方税法に定められた「第一種事業、第二種事業及び第三種事業」を営んでいる個人事業主にのみ課税されるという仕組みに特徴があります。例えば第一種事業には「製造業(物品の加工修理業を含む。)」などが、第二種事業には「畜産業(農業に付随して行うものを除く。)」などが、第三種事業には「医業」や「公認会計士業」などが含まれます。ちなみに「駐車場業」は第一種事業です。

逆に言うと個人事業主でも「第一種事業、第二種事業及び第三種事業」に当たらない事業を営んでいれば「個人事業税」は課せられないということです。しかし裁判でも問題になったのですが、これらの「第一種事業、第二種事業及び第三種事業」として列挙された各事業について地方税法で一般的な定義規定が置かれていないという問題があります。例えば個人事業主として「ボクシングのトレーナー」をやっている人がいたとしましょう。少なくとも「第一種事業、第二種事業及び第三種事業」として列挙された事業の中にはズバリ「ボクシングのトレーナー業」という表記は見当たりませんが、第三種事業の「諸芸師匠業」に当てはまるような気がしないでもありません。しかし「諸芸師匠業」の一般的な定義規定は地方税法のどこにもなく「地方税法の施行に関する取扱いについて(道府県税関係)」3章2の1(17)に定めがあるものの、ややはっきりしない部分が残る書き方をしていますから、人によって解釈が異なる可能性は十分にあるように思えます。

そして本件は「コインパーキング運営会社に土地を貸し付けている」という事業が、第一種事業の「駐車場業」に該当するかという争いです。「駐車場業」の一般的な定義を地方税法で定めておかないから、こういうトラブルが起きると言っても良いかもしれません。

3.東京都が全面敗訴

では本件について詳しく見て行きましょう。まず東京地裁は「地方税法は『駐車場業』の内容のほか『事業』自体の意義についても、一般的な定義規定を置いておらず、社会通念に従ってこれを判断するほかはないというべきである。」とし、前述の「第一種事業、第二種事業及び第三種事業」として列挙された各事業について、一般的な定義規定が置かれていないという問題点を指摘しました。その上で「まず『駐車場業』とは、対価の取得を目的として、自動車の駐車のための場所を提供する業務を自己の計算と危険において独立して反復継続的に行うものであることを要するというべきである。」とし、本件についてA氏は「(甲社の)責任において募集した第三者に対して駐車場として利用させることを前提として本件土地を貸し付けた」、「(甲社と)本件駐車場の利用者との間の駐車場利用契約や、本件駐車場の管理業務に関与していない」「(本件駐車場の稼働状況にかかわらず、甲社から)毎月約定の賃料37万8000円を受け取っていること」などから、A氏は甲社の「駐車場事業の用に供するための場所として、本件土地を定額の賃料で貸し付けているにすぎないのであるから、原告(=A氏)自身が、対価の取得を目的として、自動車の駐車のための場所を提供する業務を自己の計算と危険において独立して反復継続的に行っているものと評価することはできない。したがって、原告は、『駐車場業』を行う者であるとは認められない。」とし、A氏の主張を全面的に認めました。

その後、東京都は控訴しましたが、令和3年8月26日に東京高裁もA氏が「駐車場業」を行う者に当たるとは認められないとし、東京地裁判決を支持しました。東京都は最高裁への上告を断念し、全面敗訴が確定しました。

4.他の個人の土地オーナーにも還付の可能性

裁判というのは個別の事案について争うものですから、この判決が出たからと言って、コインパーキング運営会社に土地を賃貸している他の個人の土地オーナーにも「個人事業税」がかからなくなるかはわかりません。しかし判決内容を見て行くと、同様の事情にあるケースがかなり多そうにも思えます。「更正の請求」をすれば過去に納めた「個人事業税」について還付になる可能性がありますから、気になる人は専門家に相談するなどして対応を検討した方が良いでしょう。