LINEで送る
LinkedIn にシェア
Pocket

令和4年4月のKPCレポートは、消費者金融業等を営んでいた会社が過去に支払った法人税の還付が受けられるかどうかについて争われた令和2年7月2日最高裁判決について解説していきます。

1.消費者金融業者に激震をもたらした最高裁判決

今から16年前、消費者金融業者に激震をもたらした最高裁判決が出されました。それが平成18年1月13日最高裁判決(最高裁平成16年(受)第1518号同18年1月13日第二小法廷判決・民集60巻1号1頁)です。この最高裁判決について概要を説明します。この最高裁判決が出る前は一定の要件をクリアしていれば、消費者金融業者が「利息制限法を超える利息」、いわば「違法に多額の利息」を債務者から受け取ったとしても、それは法的に有効とみなされてきました。しかしこの考え方は債務者に著しく不利なものであるため、従前から批判が多くありました。このため消費者金融業者を相手取った裁判が発生し、これについて最高裁は「債務者が、事実上にせよ強制を受けて利息の制限額を超える額の金銭の支払いをした場合には、制限超過部分を自己の自由な意思によって支払ったものということはできず、貸金業法43条1項の規定(みなし弁済規定)の適用要件を欠く」と判示し、言うなれば「利息制限法を超える利息」については消費者金融業者は債務者に返還しなくてはならないという趣旨の最高裁判決が出てしまったのです。

この最高裁判決を契機として、多くの消費者金融業者に大量の「過払金返還請求(=利息制限法を超えて支払った利息を返してくれという請求)」が行われるようになりました。中には「過払金返還請求」に特化することで急成長する弁護士事務所や司法書士事務所まで出現するようになりました。皆さんの中にも「あなたの支払った利息が返ってきます」などというテレビCMを見たことのある方もいるのではないでしょうか。複数の弁護士事務所や司法書士事務所がテレビCMを出せるほど「儲かる」くらいですから、いかに多くの「過払金返還請求」が行われたかがわかります。逆に「過払金返還請求」をされる立場である消費者金融業者の経営は急速に悪化するようになり、経営破綻する会社も多数出るようになりました。

2.A社の経営悪化と破産

本レポートで取り上げるA社は昭和50年7月18日に設立された消費者金融業等を目的とする株式会社でした。A社も他の消費者金融業者と同じく「過払金返還請求」が原因で経営が悪化するようになり、平成24年7月5日、大阪地方裁判所に対し破産手続開始の申立てをし、B弁護士が破産管財人に選任されました。

この破産手続の中で、B弁護士はあることに気がつきました。A社の経営破綻の直接的な原因となった「過払金返還請求」は、前述の平成18年1月13日最高裁判決がきっかけです。このためA社は平成7年度から同17年度にかけて、債務者から支払を受けた「利息制限法を超える利息」について収益(=益金)として、それに対する法人税を払ってきました。しかし結果的にこの「利息制限法を超える利息」は債務者に返還しなくてはならないことになったわけですから、B弁護士はA社は平成7年から平成17年にかけて、いわば「法人税の過払」をしているのであり、これについて還付が受けられるのではないかと考えたのです。

3.更正の請求と法人税の還付

皆さんの中にご存じの方もいるかもしれませんが、法人税などの国税の還付を受けるためには「更正の請求」という手続きをとる必要があります。しかしこの「更正の請求」は国税通則法23条①により「申告期限から5年以内」しか認められないのが基本です。B弁護士が破産管財人に選任された平成24年時点では、最も新しい平成17年分ですら申告期限から5年を経過してしまっていました。つまり通常のやり方では法人税の還付を受けることはできないのです。ここでB弁護士は国税通則法23条②一という、実務ではあまり使われていない別の条文を根拠に「更正の請求」をしたのです。

この国税通則法23条②一についてイメージで説明します。前述のとおり、国税の「更正の請求」は「申告期限から5年以内」しかできないのが原則です。しかし国税通則法23条②一は、裁判の判決等がでた結果、実は過去に国税を払い過ぎていたというような結論に後追いでなったような場合、その判決等の日から2カ月以内であれば「申告期限から5年超」であっても「更正の請求」ができるという、いわば例外を定めているのです。これは裁判は必ずしも「申告期限から5年以内」に判決が出るとは限らないこと等に配慮した定めと言えるでしょう。B弁護士は、破産手続きの中で「過払金返還債務」が確定したことは、裁判の判決等がでたのと同じことであるから、その日から2か月以内であれば(「申告期限から5年超」であったとしても)国税通則法23条②一により「更正の請求」は可能であり、過去にA社が「過払」した法人税の還付が受けられるという趣旨の主張をしたのです。ところが所轄税務署長がこれを認めなかったため争いになったのです。

4.最高裁の判断

これについて最高裁の判断を見て行きましょう。最高裁はここで「法人税法22条」の存在について指摘しました。「法人税法22条」には「・・・当該事業年度の収益の額及び前項各号に掲げる額は、別段の定めがあるものを除き、一般に公正妥当と認められる会計処理の基準に従つて計算されるものとする。」との定めがあります。かなり難しい書き方をしていますが、特別なルールがどこかに書いてあるようなことがなければ、法人税は「企業会計原則」などの会計基準に沿って計算した利益に税率を乗じて計算されるというイメージで考えてください。そして最高裁は「企業会計原則は、過去の損益計算を修正する必要が生じても、過去の財務諸表を修正することなく、要修正額を前期損益修正として修正の必要が生じた当期の特別損益項目に計上する方法を用いることを定め(第二の六、同注解12)」とし、さらに「・・・貸金業を営む法人が受領し、申告時に収益計上された制限超過利息等につき、後にこれが利息制限法所定の制限利率を超えていることを理由に不当利得として返還すべきことが確定した場合においても、これに伴う事由に基づく会計処理としては、当該事由の生じた日の属する事業年度の損失とする処理、すなわち前期損益修正によることが公正処理基準に合致するというべきである。」としました。つまり「企業会計原則」では過去の財務諸表の誤りが後日に発覚したような場合、それを遡って修正するのではなく、その誤りについては「前期損益修正」として現在の期の損益とすると定めていることを指摘したのです。つまりA社についても「利息制限法を超える利息」を返還することが確定した場合でも、過去の収益(=益金)を遡って減額することはできず、それは確定した日の属する会計期間の損失となるということです。従ってA社は過去の法人税計算を修正することはできず、法人税の還付を受けることもできないという趣旨の判示をし、B弁護士の主張は認められませんでした。

5.実は複雑難解な「更正の請求」の法律構成

そんなことを言いだしたら法人税については「企業会計原則」が存在することで、一度申告してしまったものについては全く「更正の請求」ができないように思えますが、そうとも限りません。例えば、事務処理上の単純ミスでうっかり売上を二重計上してしまったような場合は認められることもあります。また「企業会計原則」とは関係のない国税、例えば贈与税などについては国税通則法23条②一が適用になる可能性もあります。

これ以外にも所得税法や相続税法など、個々の税法に「更正の請求」についての定めが個別にあるケースもあります。このように「更正の請求」を巡る法律構成は実は複雑難解となっています。ここの理解を誤ると、受けられたはずの多額の税還付が受けられないという事態も生じますから、慎重な検討が必要です。