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報道によれば、三重県の第三銀行が名古屋国税局の税務調査を受け、約4億5千万円の申告漏れを指摘された模様です。この点、「預金管理などのシステム導入をめぐり、支払った委託料の一部が費用と認められず、ノウハウの提供などに絡む一時金が含まれ」ていたとして、繰延資産計上が要請され3年で費用とするよう求められた、ということです。

しかしここで素朴な疑問があります。確かに「ノウハウの提供などに絡む一時金(以下「ノーハウの頭金等」)」については繰延資産になるのですが、法人税においては原則5年で費用とすると決まっています(法基通8-2-3)。しかし、本件は3年で費用とするよう求められた、と報道されており、矛盾が生じています。当然に費用とする期間が短くなるほど、税務上は有利となります。この報道が正しいとすれば、第三銀行だけ有利な取り扱いが認められたようにも思えます。

この「ノーハウの頭金等」に関する法令・通達を詳しく見ていきましょう。良く見ると法基通8-2-3括弧書で「設定契約の有効期間が5年未満である場合において、契約の更新に際して再び一時金又は頭金の支払を要することが明らかであるときは、その有効期間の年数」で費用とすることができるとあります。しかし一時金等を更新時に支払う、という定めを置くことが、実際の取引においては基本的にはないため、この括弧書が適用になることは極めて稀です。

そもそも今回問題になった取引は「預金管理などのシステム導入」とあります。このようなシステム導入費用は、専門家の感覚から言えば、固定資産とされるソフトウエアに該当することが通例です。固定資産であれば減価償却が必要になり、自社で使うソフトウエアは、やはり5年で費用とする取扱いになっています。そう考えると、本事案については余程特殊な事情が無い限り、「ノーハウの頭金等」と「ソフトウエア」のいずれと解釈したとしても、結論としては5年で費用とする取り扱いが、専門家の感覚から言えば当然と思えます。

税務調査は法律に則った申告がなされているかを確認するためのものです。従ってあくまでも法令に則った公平な課税処分がなされるべきです。まさかそのようなことは起こらないと思いますが、万が一、第三銀行だけ法令・通達を拡大解釈することによって3年での費用化が認められたとすれば、それは「課税の公平性」という観点から重大な問題になります。つまり一般的には「ソフトウエア」とされる支出を、無理な拡大解釈により「ノーハウの頭金等」とし、さらに無理な第二の拡大解釈により法基通8-2-3括弧書を適用し3年で費用化するという理屈を正当化しているのではないかという疑念がわいてくるのです。そうすると第三銀行だけが、他の真面目に5年で費用化している納税者よりも有利な取り扱いを受けていることになります。

一方で財基通24-4に定める広大地を巡る「平成18年3月28日東京高裁判決※」のように、実務上は有り得ないような路地状開発を合理的として課税処分を行い、しかもそれを裁判所が認めるような事例もあります。特定の納税者にはオマケをし、別の納税者には課税処分を前提とした法令・通達の無理な拡大解釈が行われているとしたら、それはとても公平な税務行政とは言えないでしょう。増して政治力のある金融機関には有利に拡大解釈をし、立場の弱い個人の不動産オーナーには不利に拡大解釈をしているようなことは間違ってもあってはならないことです。

名古屋国税局には、どのような個別要因があったら「ノーハウの頭金等」が3年で費用化できるのか、誰でも納得できるような明快な説明をしてもらいたいところです。

 

※平成18年3月28日東京高裁判決

財産評価基本通達24-4の広大地の判定に当たり、以下の路地状開発が合理的であると認められた判例。このような開発をすることは実務では有り得ないとされる。

kpcreport20150105