平成27年7月1日から、通称「出国税」(正式名称は「国外転出時課税制度」と言います)がスタートしました。この「出国税」ですが、一般的には1億円以上の有価証券等を有する資産家が海外移住すると、その含み益に対して所得税が課税される税制と理解されています。とは言うものの海外移住を検討している資産家など、実際はごく少数というのが現実でしょう。だからと言って「ウチは親子共々、海外移住する気なんかサラサラないから無関係」などと思って無関心でいると、相続発生時に突然に「出国税」が課税されることがあるということはあまり知られていません。「出国もしていないのに、なぜ出国税!?」と思われるかもしれませんが、以前からこのリスクは専門家の間では大きな話題になっています。
「国外転出(≒海外移住)した際に、所有する有価証券等の含み益に所得税が課税される」というのが一般的な「出国税」のイメージであり、これは間違いではありません。しかし「出国税」にはもう一つ特徴があります。非居住者が(一定の要件を満たす)居住者から有価証券等を贈与・相続等により取得した場合にも、「出国税」は課税されることがあるのです。
例えば子供が大手企業に勤務していて、たまたま外国の支社や支店に配属になっていたとします。その時に日本にいる父親に突然の相続が発生した場合でも「出国税」が課税されることがあるということです。「納税猶予の特例」と言って、いずれ日本に戻ってくることが予定されている場合は、当面は納付を待ってもらえる制度も存在しています。しかし「納税猶予の特例」を受けるためには、株価評価や担保提供、納税管理人の届出(原則として非居住者である相続人の連署による)など一連の複雑な手続を4カ月以内に終わらせる必要があります。手続きが間に合わなければ相続発生から4カ月以内に「出国税」を、10カ月以内に「相続税」をそれぞれ納付するということになります。
特に「国外転出」や「贈与」については本人の意思によるものですから、制度無知のような根本的なエラーが無い限りは、準備万端に整ったところで実行ということになるのでしょうが、「人の死」だけは誰にもコントロールできません。このため全く準備をしていない状態で突然の相続が発生し「相続税」に加えて「出国税」まで課税され、想定を大きく上回る多額の納税資金の準備が必要になると言う事態も考えられます。場合によっては納税資金の調達が出来ずに窮地に陥る事態も十分に考えられます。この「出国税」は非上場会社の企業オーナー系資産家にとって大きな脅威となり得るものですから、子供が海外に転勤を命じられる可能性のある企業に勤めているというだけでも、準備をしておくべきなのです。
この他にも「出国税」は様々な注意点があります。対象者に該当する可能性があると思える資産家は、必ず一度専門家に相談する必要があると言えます。