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住所の扱いが決め手に

今回は平成28年3月1日の裁決事例を紹介していきます。

審査請求人(以下「請求人」)は仕事上の必要性から、日本を含む複数の国に数日ないし数週間滞在すると別の国に移動し、一か国に長期間滞在することはありませんでした。このため請求人の日本滞在日数は年間183日を大きく下回り、ほとんどの年で年間の4分の1程度でした。このため請求人は、自身の「住所」が日本にあったとは言えず「居住者」に当たらないと主張しました。

これに対して国税不服審判所は、各人の住所の認定は、その者の国内外での①滞在日数、②生活場所及び同所での生活状況、③職業及び業務の内容・従事状況、④生計を一にする配偶者その他の親族の居住地、⑤資産の所在、⑥生活に関わる各種届出状況等の客観的諸事情を総合的に勘案して行うのが相当としました。

住所が日本である根拠

認定事実によると、請求人の各国別の年間平均滞在日数は日本が102日と最も多く、以下、A国が91日、B国が75日、C国が43日、D国が32日と続きました。また請求人の滞在状況を月単位でみると、日本には必ず毎月一度は滞在しているのに対し、他の諸外国には全く滞在実績のない月が存在しました。請求人の妻、長女及び次女は日本に居住しており、請求人は日本滞在時には日本居宅にて、彼らとともに生活していました。また請求人は病気の治療のため、ほぼ毎月、日本の病院に通院していた他、会社の代表者として、毎月一回、日本で開催される経営会議に出席し経営判断を示すなどしていました。さらに請求人の主な資産は日本国内にある他、会社の日本の金融機関からの借入金に対する連帯保証人にもなっており、居宅には日本の金融機関の抵当権が設定されていました。

国税不服審判所は、これらの客観的諸事情を総合的に勘案した結果、諸外国に比べて日本の方が、請求人の生活の本拠たる実態をより一層具備していたというべきであるから、請求人の住所は日本にあったとし、所得税法2条1項3号に規定する「居住者」に当たると認定しました。

武富士事件の余波

このように「居住者」であるかは、単純に「滞在日数」だけで判定することはできません。一年の半分以上を外国で過ごしていたとしても「非居住者」と認定されないことがあります。「武富士事件」や「中央出版事件」でもあったように「住所」を巡る税務訴訟や不服審判は著しく増加しています。その判断は、個別性が高く、極めて実務的であるため、必ず専門家の意見を仰ぐようにしてください。