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今回のKPCレポートでは、自宅金庫に保管されていた被相続人所有の金地金を隠ぺいし、相続税を逃れようとした事案に関する平成29年10月25日裁決事例を紹介していきます。また相続人の一人である請求人が、税理士法人の代表社員を務める税理士であったことにも注目です。

1 事案の概要~祖母と母親が相次いで死去~

被相続人(以下「祖母」といいます)の相続発生に伴い、その相続財産は祖母の実子である請求人の母親(以下「母親」といいます)と叔母、祖母の養子となっていた母親の長男(祖母から見れば孫)である請求人と、同じく祖母の養子となっていた請求人の妹(以下「実妹」といいます)の4名が相続しました。この祖母の相続税申告書は、税理士である請求人が代表社員を務める税理士法人の、請求人ではない別の税理士の署名及び押印がされていました。なお祖母の遺産分割協議書及び相続税申告書には、いずれも遺産として金地金がある旨の記載はありませんでした。なお祖母の夫(以下「祖父」といいます)は、祖母の相続発生前に既に他界しています。

この祖母の相続税申告をして間もなく、今度は母親が死去しました。母親の相続税申告書においては、金地金6kgが相続財産として記載されており、税理士法人の代表社員税理士である請求人自らが税務代理人となっていました。

2 母親の税務調査の事前通知に動揺?実地調査の前日に修正申告

原処分庁調査担当職員は、平成27年11月17日、請求人に対し同年12月1日に母親の相続税に係る実地調査を行う旨を連絡しました。請求人はこれに動揺したのか、実地調査の前日である平成27年11月30日に、母親の相続財産とすべき金地金の合計重量が21kgであったとして、母親の相続に係る相続税の修正申告書を提出しました。

3 金庫には36kgの金地金

原処分庁調査担当職員は、平成27年12月1日の実地調査において、母親の相続開始日において、金庫に36kgの金地金が保管されていたことを聴取しました。また祖母の相続開始日から、母親の相続開始日までの間に金地金が追加で購入された事実等が認められないことからすると、祖母の相続開始日においては、請求人が(祖母の相続開始日から、母親の相続開始日までの間に)母親から贈与された金地金0.6kgを加えた合計36.6kgの金地金が本件金庫に保管されていたと認定しました。

4 金庫にある金地金の本当の所有者は誰?

税理士である請求人は原処分庁の動きを先読みしたのか、税務調査中の平成28年4月12日、祖母の相続開始日に金庫に保管されていたとされる金地金36.6㎏のうち20.6kgが、大昔に死去した祖父の相続財産であるとし、祖父の養子であった請求人が10.6kg、実妹が10kgの金地金を取得したとする遺産分割協議書を慌てるように作成しました。請求人は金庫にあった36.6kgの金地金の全てが祖母若しくは母親の相続財産と認定され、多額の相続税が追徴課税されることを恐れ、先手を打って祖父の相続財産であるとのストーリーを構築しようとした可能性があります。もちろん祖父の相続税について金地金の申告漏れがあったということになるわけですが、祖父が亡くなったのは大昔ですから、祖父の相続税申告については時効主張により逃げ切れると考えたのかもしれません。

一方で原処分庁は金地金36.6kgの真実の所有者は基本的には購入者であるという前提のもと、購入伝票等から15.4kgは祖父、5.2kgは祖母、16kgは母親が購入していたものと認定しました。そうだとすると少なくとも祖母は相続財産として5.2kgの金地金を所有していたということになり、これについて祖母の相続税申告書に記載がなかったことから申告漏れであるとして、相続税の更正処分をしました。つまりこの5.2kgはもともと祖母の金地金であって、それが祖母の死去にともない母親に相続され、さらに今度は母親の死去に伴い続けて請求人らに相続されたと考えたのです。つまり原処分庁の理解は、母親が祖母の生前に自身で購入した金地金が16kg、祖母から相続した金地金が5.2kgであり、母親の相続財産に含まれる金地金は21.2kgであるというものですから、母親の相続財産に含まれる金地金が21kgであるとして修正申告書を提出した請求人の主張のとも概ね合致します。そうだとすると本来は母親の相続税の当初申告書にも申告漏れがあったわけですが、実地調査の前日に請求人が先手を打って修正申告をしたことから、こちらについては更正処分を免れたと考えて良いでしょう。

非常に珍しいケースかとは思われますが、母親の相続税の税務調査の結果明らかになった事実を基に、祖母の相続税申告が蒸し返される形で否認される結果となったわけです。

5 母親と請求人に仮装・隠ぺい行為

しかし話はこれで終わりませんでした。まず母親については「本件金庫の鍵を管理し、本件金庫に自己が購入した金地金を保管したり、本件金庫に保管されていた金地金を取り出して請求人に贈与したりして、本件金庫を使用していた。」とした上で、母親は「金地金が本件購入伝票等とともに本件金庫に保管されていることを認識していたものと認められる。」としました。その上で母親が「本件金地金を本件遺産分割協議書の原案に記載せず、本件遺産分割協議書及び本件申告書を作成させた上、本件申告書に本件遺産分割協議書を添付して申告した行為は、当初から相続税の課税価格を過少に申告することを意図し、その意図を外部からもうかがい得る特段の行動をした上、その意図に基づく過少申告をした場合に当たるものと評価することができる。」とし母親に国税通則法第70条第4項第1号に規定する「偽りその他不正の行為」があったとしました。

さらに請求人についても「被相続人居宅に本件金庫が設置されていることを認識しており、その鍵の保管場所も知っていたのであるから・・・(母親にに対し)本件金庫に何が保管されていたかについて説明を求めたり、自ら本件金庫の内部を確認したりすることが容易であったにもかかわらず、そのような調査を一切行わず、本件相続に係る相続財産の調査、遺産分割協議書の作成及び被相続人に係る相続税の申告書の作成を全て・・・(母親に)任せていたのであるから、申告手続を行う者の選任、監督において請求人に過失がないとは認められず・・・(母親の隠ぺい行為を)請求人の行為と同視することができる」として、請求人についても国税通則法第70条第4項第1号に規定する「偽りその他不正の行為」があったとしました。

さらに税務調査時には既に母親は他界していたことから、請求人は母親に課されるべき重加算税について納付義務を承継することとなりました。つまり自分の分だけでなく、本来は母親が支払うはずであった重加算税まで、請求人が負担させられる結果となったのです。

6 金地金と支払調書

現在は「金地金等の譲渡の対価の支払調書」制度があることから、一定額以上の金地金を購入した人の情報は、販売会社等から税務当局に定期的に報告する制度が法定されています。また被相続人の預金通帳から購入資金の動きを探ることなども可能です。金地金を金庫に隠しておけばばれないだろうなどと安易な考えを持っていると、大きなペナルティが課される危険性があります。

また仮装・隠ぺいの意図がなくても、金地金のようなものは実際に誰のものなのか長い年月の間にわからなくなってしまうということも考えられます。きちんと台帳をつけるなどして管理をしないと、税務調査だけでなく、遺産分割協議でも混乱をきたす原因となる危険性があります。