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 今回のKPCレポートは、請求人が香港に設立した外国法人について「独立企業としての実体を備えている」と認められず、請求人に「タックスヘイブン対策税制(外国子会社合算税制)」が適用されるとした平成29年9月7日裁決事例について紹介していきます。

1 タックスヘイブン対策税制(外国子会社合算税制)とは

 タックスヘイブン対策税制(外国子会社合算税制)とは、いわゆる「国際的な租税回避」に対処するための税制です。ザックリ言うと、日本の会社が、日本より法人税率の低い国にいわゆる「ペーパーカンパニー」を子会社等として持っていた場合、その「ペーパーカンパニー」の収益を日本の会社の収益とみなして、日本の法人税を課税するという税制です。外国の会社の収益に日本の法人税を課税するというちょっとおかしな税制ではあるのですが、このような税制がないと法人税率の低い国に子会社として「ペーパーカンパニー」を次から次へと作って利益を付け替えて、法人税を不当に節税しようとする会社が多く出てくる可能性があるため、このような税制が存在しているのです。しかし法人税率の低い国の子会社がいわゆる「ペーパーカンパニー」ではなく「独立企業としての実体を備えている」と認められた場合等は、タックスヘイブン対策税制の適用はありません。例えばケイマン島に作った子会社が「資産管理会社」のようないわゆる「ペーパーカンパニー」であればタックスヘイブン対策税制が適用されますが、実際にケイマン島に工場があって自動車部品を製造しているような場合は適用がないとイメージしておけば良いでしょう。しかしケイマン島の子会社が資産管理と自動車部品製造の双方をやっていているような場合はどうしたら良いのかなど非常に迷うケースも多く、極めて実務的で専門性の高い分野と言えます。

2 請求人の主張

 A社は、中華人民共和国(以下「中国」という。)香港特別行政区(以下「香港」という。)において、平成12年に設立された外国法人です。請求人は、A社の大株主である内国法人(日本の会社)です。
 請求人はこのA社が「独立企業としての実体を備えている」ことから、タックスヘイブン対策税制の適用は除外されるとの立場をとり続けました。A社は「香港や中国に進出している日系メーカーを顧客として、当該顧客に対して受注製品を販売している」ことや「香港において事業の管理、支配及び運営を自ら行っている」ことなどから、いわゆる「ペーパーカンパニー」ではないという内容の主張です。またA社が株主総会及び董事会(日本でいうところの「取締役会」)の決議を書面決議で行っていたことについては、香港の会社法及びA社の定款で認められており、これらの書面決議は香港において株主総会及び董事会を開催しているのと同義であると主張しました。

3 原処分庁及び国税不服審判所の判断

 しかし原処分庁はA社が「独立企業としての実体を備えている」か否かはA社の「重要な意思決定機関である株主総会及び取締役会の開催、役員の職務執行、会計帳簿の作成及び保管等が本店所在地で行われているかどうか、業務遂行上の重要事項を当該特定外国子会社等が自らの意思で決定しているかどうか等の諸事情を総合的に考慮し、当該特定外国子会社等が本店所在地において、事業の管理、支配及び運営を自ら行い、独立した法人としての実体を備えて活動しているといい得るか否かによって判断すべきものであると解するのが相当である。」としました。
 その上で原処分庁は「A社の株主総会や取締役会たる董事会等が香港において開催された事実は認められない」点や「董事長兼総経理(本件においては日本でいうところの「代表取締役社長」に実質的に相当)は、中国に居住し、中国の別の会社の董事長として常駐しており、香港事務所にほとんど行くことがなかった」などから「A社は、本店所在地である香港において、事業の管理、支配及び運営を自ら行った上で活動していたとは認められない」とし、A社はいわゆる「ペーパーカンパニー」であるから、タックスヘイブン対策税制の適用をがあるという趣旨の判断をし、国税不服審判所も原処分庁の判断を全面的に認めました。

4 判断は高度に実務的

 このように原処分庁の主張が全面的に認められたわけですが。一方で請求人の主張が100%間違っているかというとそうとも言えない部分が多いのではないでしょうか。原処分庁や国税不服審判所は、株主総会や董事会等が香港で行われていないことや、董事長兼総経理が中国に居住し香港事務所にほとんど行くことがなかったことなどを大きな判断材料としていますが、今はインターネットやSkypeなどが発展してきて、従業員ですら出社しないことが当たり前となってきている時代です。このような時代背景を考えると、株主総会や董事会が香港で行われていないことや、董事長兼総経理が香港にほとんど行っていないことなどを大きな判断材料とするというのは、あまりにも時代遅れと言えないでしょうか。
 しかしそもそもタックスヘイブン対策税制の適用の可否判断は高度に実務的で専門性の高い、要するに専門家であっても非常に迷うことの多い悩ましいテーマなのです。請求人の立場としてはこのような論点は事前にきちんと整理し、税理士を通じて税務当局に事前相談に行くなどの十分な準備をしておくべきだったということです。また日本の税務実務(あるいは裁判実務)においてはこのような一昔前の感覚を持っている人達が、未だに最終的に判断する権限を持っていることも頭に入れておいて損はないものと思われます。また個人の資産運用等についてもタックスヘイブン対策税制は適用される点も付け加えておきます。