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 今回のKPCレポートは、金地金取引を利用した「消費税還付」が認められなかった平成29年8月21日裁決事例を紹介していきます。

1 時系列

 請求人は、資本金の額1,000,000円、決算日を6月30日とする法人です。請求人は、平成25年6月17日、金地金を23,475円で購入し、同月26日、その全量を購入金額より低い価額で売却しました。請求人の平成25年6月期における資産の譲渡等の対価の額は「課税資産の譲渡等の対価の額」である当該金地金の売却によるもののみであったため課税売上割合は100%です。
また請求人は、平成25年6月28日、請求人の代表者らが所有する土地を代金72,800,000円で、当該土地上の建物及び建物附属設備を代金71,085,000円(内、消費税等3,385,000円)で買い受ける旨の契約を締結しました。請求人は、本件売買契約の締結日である平成25年6月28日付で本件不動産を資産計上するなどの経理処理を行いました。なお請求人は(決算日である平成25年6月30日後の)平成25年7月31日に、本件売主らに対して、本件不動産の代金全額を支払い、同日、本件不動産の所有権は本件売主らから請求人に移転されました。

2 消費税還付と更正処分

 消費税基本通達によると「課税仕入れを行った日」は「その引渡しのあった日(本件でいうところの平成25年7月31日)」を原則とするものの「契約が有効に効力を発生し、かつ、譲渡に係る経理処理を適正に行っている場合」には「契約の効力が発生した日(本件でいうところの平成25年6月28日)」とすることも認められています。
請求人の平成25年6月期の課税売上割合は、前述の通り100パーセントです。そして「契約の効力が発生した日」である平成25年6月28日を本件建物等の「課税仕入れを行った日」として経理処理をすれば、本件支払対価に係る消費税等の額の大部分の還付を受けることが、少なくとも通達を棒読みする限りは可能です。
しかし原処分庁は、本件建物等の「課税仕入れを行った日」は「その引渡のあった日」の平成25年7月31日であるとして、本件課税期間に係る消費税等の更正処分及び過少申告加算税の賦課決定処分をした、すなわち消費税等の還付は認められないとしたため争いとなりました。

3 「課税仕入れを行った日」は「その引渡のあった日」なのか?「契約の効力が発生した日」なのか?

これに対して国税不服審判所は「課税関係においては、租税負担の公平の維持が強く要請されるところ、一部の納税者によって租税負担の軽減のみを目的に他に合理的な理由が存在しないにもかかわらず異常な取引がなされた場合に、そのことを看過すると、正常な取引を行っている納税者との間に租税負担の大きな不公平が発生するなど、課税上弊害が生ずることとなる。したがって、租税負担の減少のみを目的とし、他に合理的な理由が存在しないにもかかわらず・・・租税負担を減少させた場合には、租税負担の公平を著しく害する特段の事情がある場合に当たり、そのような特段の事情がある場合には、本件通達規定ただし書を適用しないものとするのが相当である」としました。すなわち「租税負担の公平を著しく害する特段の事情がある場合」に該当するならば、「課税仕入れを行った日」は原則である「引き渡しのあった日」になり「契約の効力が発生した日」とすることは認められないとしました。

4 「租税負担の公平を著しく害する特段の事情がある場合」に当たるのか①~請求人が「課税仕入れを行った日」を「契約の効力が発生した日」で経理処理した理由~

では本件は「租税負担の公平を著しく害する特段の事情がある場合」に該当するのでしょうか。
国税不服審判所は「仮に、請求人において、引渡基準を採用し、本件不動産の引渡日である平成25年7月31日付で本件不動産を資産計上するなどの経理処理をし、本件支払対価に係る消費税額を同日の属する課税期間の控除対象仕入税額に算入した場合、同日以降は請求人に居住用不動産である本件建物等の賃料収入・・・が発生するため、課税売上割合が大幅に低下し、本件支払対価に係る消費税等の額の大部分又は全部の還付を求める確定申告をすることができなくなると考えられる・・・。このように、請求人において契約基準を採用するか引渡基準を採用するかによって、本件支払対価に係る消費税等の額の還付請求可能額が大きく異なってくるが、他方で、この点を除くと、証拠上、請求人において引渡基準ではなく契約基準を採用すべき理由は特に見当たらない。そうすると、本件不動産の譲受けに係る各取引の経理処理は、本件通達規定ただし書を適用して本件支払対価に係る消費税等の額の大部分の還付を受ける目的のみで行われた経理処理と認められ、その他に合理的な理由は認められない。」としました。

5 「租税負担の公平を著しく害する特段の事情がある場合」に当たるのか②~金地金取引を行った理由~

さらに「請求人における金地金取引についてみるに、当該金地金取引は、請求人の事業目的である不動産賃貸等とは無関係である上、請求人は、金地金を購入し、その僅か9日後に購入金額以下で当該金地金を売却していることからすると、当該金地金取引自体には経済合理性は認められない。他方で、請求人は、21日間と短期間の本件課税期間において不動産賃貸業を行わずに当該金地金取引のみを行うことにより、本件課税期間の課税売上割合を100パーセントにし、本件支払対価に係る消費税等の大部分の還付を求める確定申告をしている。そうすると、当該金地金取引は、本件支払対価に係る消費税等の大部分の還付を求める目的のみで行われたものと認められ、その他に合理的な理由は認められない。」と国税不服審判所はしました。

6 「租税負担の公平を著しく害する特段の事情がある場合」に当たるのか③~指南した税理士~

さらに国税不服審判所は「加えて、原処分関係資料及び当審判所の調査の結果によれば、■■■■■■■(※請求人のグループ会社)は、本件課税期間の消費税等などについての請求人の税務代理人である税理士が全額を出資して設立された法人で、同税理士が唯一の代表社員であったこと、同税理士は不動産投資に係る消費税還付等の不動産投資に関わる税務を専門的に扱っていることが認められ、これらの事情も併せ考慮すると、■■■■■■■の設立以後の一連の経過は、請求人について、本件支払対価に係る消費税額等の額の大部分の還付を受けるために、本件課税期間に課税事業者とした上で、簡易課税制度の適用により消費税法第33条第1項、第3項による調整を免れさせるべく計画的に行われたものと認められる。」としました。

7 結論

国税不服審判所はこれらの内容を受けて「請求人は、消費税等の還付を受けるためだけの目的で、ほかに合理的な理由が存在しないにもかかわらず、形式的かつ画一的に本件通達規定ただし書が規定する契約基準を適用することにより、消費税等の多額の還付を求めたものと認められる。このことは、租税負担の公平を著しく害する特段の事情がある場合に当たるというべきであるから、本件において、本件通達規定ただし書が規定する契約基準の適用は認められない。・・・したがって、本件建物等の「課税仕入れを行った日」は、本件不動産の「引渡しがあった日」である平成25年7月31日となり、本件課税期間に属する日ではない。」として原処分庁の主張を全面的に認めました。

8 「租税負担の公平を著しく害する特段の事情がある場合」なのか、正しい「消費税還付」なのかの線引きは高度に専門的

 このように本件については「消費税還付」は認められなかったわけですが、注意して欲しいのは全ての「消費税還付」が「租税負担の公平を著しく害する特段の事情がある場合」に当たると言っているのではありません。法令・通達の趣旨に沿った正しい「消費税還付」であれば、むしろやらなければ税理士が訴えられてしまうのです。しかしその「消費税還付」が「租税負担の公平を著しく害する特段の事情がある場合」に該当するのか、法令・通達の趣旨に沿った正しいものなのかの線引きは高度に専門的です。法令・通達の趣旨の理解等に加え、実務事例に関する情報を十分に収集し、慎重に判断することが必要です。またセミナーや書籍、HP等で、消費税に限らずいわゆる「節税対策」の指南を標榜している税理士を使っていると、税務調査で不利になる危険性があるということも頭に入れておいて良いかもしれません。

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