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令和2年10月のKPCレポートは、個人間の株式譲渡取引が「著しく低い価額」であるとして、買主に贈与税が課税された平成19年1月31日東京地裁判決について紹介していきます。根拠となった相続税法7条、いわゆる「みなし贈与」は、租税回避の意図があることを主観的要件とせず、独立第三者間取引においても適用されることが示されました。

1 事案の概要

甲はA社の創業者であり、代表取締役でありかつ、筆頭株主でした。甲は平成10年2月18日から同11年2月24日にかけて合計116人の株主から1株1,250円(一部に1株850円の譲渡人あり)で、A社株式を取得しました。

これに対し市川税務署長は、A社株式の時価(相続税評価額)は1株8,291円~21,864円(取得日によって若干の変動あり)であり、本件各譲受けは相続税法7条の「著しく低い価額の対価で財産の譲渡を受けた場合」に当たるとして、甲に平成10年分と平成11年分の贈与税の決定処分をし、無申告加算税と合わせると5億円以上の課税をしたため争いとなりました(内訳はレポート末尾に記載)。

2 相続税法7条は「独立第三者間取引」にも適用される

甲は相続税法7条は「本来の立法目的に従い、租税回避の意図があることを主観的要件とするか、又は、独立第三者間取引においては同条を適用するべきでない」などと主張しました。しかし東京地裁は「著しく低い価額の対価で財産の譲渡を受けた者の担税力の増加に着目し、それ自体に課税するものであるから、取引当事者間の関係及び主観面を問わないものと解すべきである」などとして甲の主張を退けました。

3 「独立第三者間取引」でも時価とは限らない

さらに甲は「本件各譲受価額は、原告と何の関係も持たない本件各譲渡人との間で行われた独立第三者間取引によるものであり、また、本件各譲受価額は、売買当事者が任意に決めた合理的な価額であるから、本件各譲受日における本件各株式の時価である」旨を主張しました。

これに対して東京地裁は甲がA社の代表取締役であり、かつ筆頭株主であることなどから「原告の方が本件各譲渡人に比べて圧倒的に優位な立場にあり、原告と本件各譲渡人とは、売却時期及び売却価額等の売却の条件を対等な立場で交渉できるような関係ではなかったものというべきである。」などとし「本件各譲受価額は、原告が、本件各譲渡人の意向とは無関係に、一方的に決めた価額であるといわざるを得ない。」としました。また甲は「本件における買取価額は、公認会計士や税理士等の専門家に相談して決めたものでも、評価通達に定められた評価方法を基に算定したものでもなく、原告の大体の感覚で決めた」と述べていることから「原告が買取価額の設定をする際に何らかの合理的な方法に基づく計算を行ったという事実は認められない」としました。
以上より「本件各譲受価額は本件各株式の本件各譲受日における客観的交換価値を正当に評価したものとはいえない」とし、課税当局の主張を全面的に認めました。

4 まとめ

ここで注意すべき点は、個人間の株式の譲渡取引は「独立第三者間取引」であっても「相続税評価額」で行わなければ、全て相続税法7条の「みなし贈与」が適用されてしまうということではありません。まず本件で「みなし贈与」とされた大きなポイントは「対等な立場で交渉」が行われていなかったこと、買取価額の算定根拠が不明確であったことの2点になります。つまり「対等な立場で交渉」が行われていたか「公認会計士や税理士等の専門家」の株価の鑑定書のようなものがあれば、違った結論になった可能性があるということになります。

もちろん「対等な立場で交渉」があったかどうかは非常に主観的な判断になりますし、仮に「公認会計士や税理士等の専門家」の鑑定書があったとしても、その内容があまりにも恣意的であれば認められないということもあるでしょう。買取価額の妥当性については、取引実行前に十分な検討をしておくことが重要ということになります。

(参考)甲が納付すべき贈与税及び無申告加算税
(平成10年分)
贈与税額    4億4552万3100円
無申告加算税額   6682万8000円
(平成11年分)
贈与税額      1736万4000円
無申告加算税額    260万4000円

以上

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