LINEで送る
LinkedIn にシェア
Pocket

令和3年3月のKPCレポートは、6億6,000万円で取得した不動産の取得価額を、建物と土地にどう按分するかについて争いになった平成30年9月11日国税不服審判所裁決事例を紹介していきます。この按分によって「法人税等」や「消費税等」の額が大きく異なるため、実務上は非常に重要なポイントになります。

1.不動産売買契約書に基づき、売買価額の約90%を建物の取得価額に按分

甲社は平成24年12月6日に土地と建物を合わせて660,000,000円で取得する不動産売買契約を締結しました。なお不動産売買契約書には売買価額に消費税等相当額28,421,052円を含むことが記載されていました。甲社は消費税等の金額から逆算して建物の取得価額を596,842,105円(≒28,421,052円÷0.05×1.05、売買価額の約90%)としました。そして土地の取得価額は、売買価額から建物の取得価額を差し引いて63,157,895円(=660,000,000円-596,842,105円、売買価額の約10%)としました。

ところが原処分庁は、建物および土地の取得価額は、各固定資産税評価額の比により按分するのが合理的であるとして、法人税等及び消費税等の更正処分及び過少申告加算税の賦課決定処分をしたため争いになりました。

2.建物の取得価額が大きいほど、税金面で有利になる甲社

まずこの争いの背景として、建物の取得価額が大きいほど、甲社は税金面で有利になるという立場にあったということがあります。まず土地と異なり建物は減価償却が出来ますから、建物の取得価額が大きいほど減価償却費が大きくなり、甲社の法人税等は減少します。また消費税等についても、土地と異なり建物については「仕入税額控除」がとれるため、こちらもまた建物の取得価額が大きいほど税金面で甲社は有利になるというわけです。これらの背景から、甲社は可能な限り建物の取得価額を大きくしたいというインセンティブを持っていた可能性があります。

3.不動産売買契約書による按分が基本だが「著しく不合理」な場合は認められない

まず国税不服審判所は「土地と建物が一括して売買された場合であっても、当該売買契約において土地及び建物それぞれの価額が定められているのであれば、基本的には、当該売買契約によって当事者が定めた価額をもって建物の購入の代価とすることが相当である。」とする一方で「当該売買契約において定められた建物の価額がその客観的な価値と比較して著しく不合理なものであるなどの場合に、これを同号の取得価額としてそのまま認めることは、売買契約の際に、土地と建物への代金額の割り付けを操作することで容易に減価償却資産として損金に算入される額を操作できることとなり、租税負担の公平の原則に反する結果となるのは明らかである。したがって、このような場合には、合理的な基準により算定される建物の価額が、同号にいう当該資産の購入の代価となると解される。」としました。 その上で「特段の事情がある場合は、合理的な方法により土地及び建物それぞれの対価の額を算出することが必要となり、その基準については、法人税と消費税との間で異なるものではないと解される。」としました。

まとめると建物と土地の取得価額の按分については、不動産売買契約書の定めによることが基本だが、その按分が「著しく不合理」であるような場合は、別の合理的な方法により按分しなくてはならないということになります。

4.甲社の行った按分は「著しく不合理」か

国税不服審判所は、建物に按分された取得価額596,842,105円について「本件建物の固定資産税評価額と比べ著しく高額である」としました。また平成24年分の路線価地積を乗じた土地の価額が371,243,600円であることなどから、土地に按分された取得価額63,157,895円を「著しく低額である」としました。その他の事情も勘案した結果、甲社が行った取得価額の按分は「著しく不合理なものであると認められる」とし、別の合理的な基準により算出する必要があるとしました。

5.合理的な按分方法は「固定資産税評価額比あん分法」

次に国税不服審判所は、どのような方法で按分するべきかということについて検討をし「固定資産税評価額によりあん分する方法」によることが合理的であるとしました。その理由は「特に中古物件の場合は、簡易、迅速に、土地及び建物の価額を把握してあん分することができること、固定資産税評価額は、土地の場合は路線価と同様に地価公示価格や売買実例等を基に評価し、建物の場合は再建築価額・・・に基づいて評価されているから、土地及び建物ともに時価を反映していると考えられること、土地と建物の算出機関及び算出時期が同一であるから、土地及び建物の固定資産税評価額は、いずれも同一時期の時価を反映しているものと考えられること」であるとしました。

そして国税不服審判所が上記の「固定資産税評価額比あん分法」により再計算し、建物の取得価額は110,643,456円(売買価額の約17%)、土地の取得価額は549,356,544円(売買価額の約83%)と決まりました。建物の取得価額が5分の1以下になってしまったため、甲社の法人税等及び消費税等は大きく増加し、多額の延滞税と過少申告加算税も負担することになってしまいました。

6.どのような場合に「著しく不合理」となるのかについては不明確なまま

本件についてはこのような結論になったわけですが、実務において大きな問題はどのような場合に「著しく不合理」に該当するかについての具体的かつ明確な基準が存在しないことです。確かに建物と土地に9:1で取得価額を按分するというのは、さすがに「著しく不合理」と言われても仕方ないように思えます。しかし仮に甲社が6:4で按分していたらどうだったのでしょうか?あるいは5:5だったら?あるいは4:6だったらどうだったのでしょうか?このような問いかけに対して国税不服審判所は答えることはありません。結局のところ実務においては、個別に不動産の状況を十分に分析し、国税庁の内部資料や過去の判例・裁決事例などの情報に可能な限り当てはめて、ケースバイケースで考えるしかないということになります。