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令和3年9月のKPCレポートは、海外の子会社に支払った「業務委託費」が、法人税法上の「寄附金」と認定された平成14年4月26日熊本地裁判決について紹介していきます。通常であれば「業務委託費」は「販売費、一般管理費その他の費用」として法人税法上の「損金」になります。ところが「寄附金」と認定されてしまうと、多くの場合、そのほとんどが「損金」になりませんから、会社の法人税等の負担が増加するということになります。

1.韓国に子会社を設立

A社は昭和60年10月5日に蜂蜜関連健康食品の製造、販売を主たる目的として設立された株式会社です。A社は平成8年9月5日に食品・健康補助食品等の貿易業及び販売業等を目的するB社を自社の全額出資で韓国に設立しました。なおB社の代表理事にはA社の代表取締役甲が就任し、また現地の従業員2名を雇用していました。

A社は平成9年6月12日、B社と業務委託契約を締結しました。業務委託契約書に書かれた業務委託の内容は「経済金融情勢調査、市場需要動向調査、顧客情報等の調査及びA社との間で別途合意した事項」とされていました。なお手数料としてA社からB社に毎月100万円が支払われることも契約で定められました。

A社は平成9年9月期及び平成10年9月期に、このB社に支払った「業務委託費」計1,500万円を「損金」に算入して法人税等の申告をしたところ、宇土税務署長より「寄附金」と認定され、更正処分及び過少申告加算税の賦課決定処分がなされたため、争いになったのです。

2.法人税法上の「寄附金」とは何か

まず法人税法上の「寄附金」とは何かについて確認していきます。法人税法37条には「前各項に規定する寄附金の額は、寄附金、拠出金、見舞金その他いずれの名義をもつてするかを問わず、内国法人が金銭その他の資産又は経済的な利益の贈与又は無償の供与(広告宣伝及び見本品の費用その他これらに類する費用並びに交際費、接待費及び福利厚生費とされるべきものを除く。次項において同じ。)をした場合における当該金銭の額若しくは金銭以外の資産のその贈与の時における価額又は当該経済的な利益のその供与の時における価額によるものとする」との定めがあります。会社がお金を支出する時というのは、何らかの見返りを求めるのが当たり前です。例えば仕入先から原材料や商品を仕入れる場合や、文房具やパソコンを買う場合、あるいは従業員に給料を払う場合も、全て何らかの見返りの対価としてお金を支出するわけです。このような見返りの対価としての支出については、基本的に「損金」として認められます。しかし何も見返りがないのに支出をした場合、お金をプレゼントしてしまったのと同じですから、そのような支出が「寄附金」であり、多くの場合、そのほとんどが「損金」とは認められないとイメージしてください。

要するに本件は、A社はB社に1,500万円ものお金を払っているが、B社はそれに対して何の仕事もしておらず、お金をプレゼントしているのと同じだから「寄附金」であると税務当局から認定されたと理解しておけば良いでしょう。もちろんA社は、あくまでもB社に仕事をしてもらって、その見返りの対価として1,500万円を払ったのだから、当然に「損金」になるという立場です。つまり一番の話のポイントは「B社が1,500万円の報酬をもらって、それに見合う仕事を本当にしていたのかどうか」と言っても良いでしょう。税務当局とA社のどちらの言うことが正しいのでしょうか。

3.B社の実態

まず熊本地裁はB社を取り巻く状況について整理していきました。B社は、設立後の平成8年末頃から具体的な営業活動を開始しましたが、十分な収益をあげることはできませんでした。例えばB社の平成10年6月期決算を見ると、売上の70%がA社からの業務委託収入であるにもかかわらず、多額の赤字になっていました。

次にB社の活動について確認していきました。B社の従業員2名の主な仕事は、事務所において電話により得意先から注文を受け、受注した製品をA社に発注し、入荷した製品を受注先へ配送するために運送業者に電話連絡をすることでした。またその他の業務も会社運営に関する内部的な事項にすぎず、業務委託契約で定められた「経済金融情勢調査、市場需要動向調査、顧客情報等の調査」などがされた形跡はありませんでした。またA社はB社が業務委託契約に基づき「(A社の)広告宣伝活動(を韓国でしている)」と主張し、その具体的な内容として「第11回国際健康産業博覧会」への参加や「雑誌への宣伝広告の掲載」を示しました。しかし熊本地裁はこれらは「(B社)自身の営業活動の一部として行われたと見るのが自然である。」と結論付けました。

4.まとめ

以上より熊本地裁は「・・・事実及び弁論の全趣旨を総合すれば、Bが本件業務委託契約に基づき韓国における健康食品等の市場動向及び国民の需要度を調査した形跡はなく、同社による前記報告書等の提出及び広告宣伝活動も本件業務委託契約に基づき行われたものではなく、B自身の事業活動の一環として行われたものであって、結局、原告のBに対する本件支出は、Bが行った役務の対価ではなく、経営状態の悪かったBを維持存続させるための無償の資金供与であったものであり、法37条6項の寄附金に該当する(同項の括弧書きには該当しない。)と認めるのが相当であり、上記認定に反する甲33、証人戊及び原告(注:A社)代表者の各供述は前記(1)イ、ウの事実に照らし採用できず、他に同認定を覆すに足りる証拠はない。」としました。さらに熊本地裁は「Bは、原告が全額出資して設立された外国法人であり、租税特別措置法66条の4第1項の国外関連者に該当するから、同条3項により、寄附金たる本件支出額を原告の損金の額に算入することはできないこととなる。」とし税務当局の主張が全面的に認められました。

後半の部分について簡単に補足しておくと「寄附金」は、多くの場合、ほんの少しは「損金」になるのですが「寄附金」の相手方が外国にある子会社等である場合は、全額が損金にならないという「租税特別措置法66条の4(国外関連者との取引に係る課税の特例)」という特別のルールが存在するのです。つまりA社は「寄附金」の相手方が外国にある子会社であったことで、通常の場合よりもさらに不利な取り扱いを受けてしまったと理解しておけば良いでしょう。

なおこの後の福岡高等裁判所、最高裁判所でも同様の内容の結論が示されて税務当局の勝訴が確定しています。

5.実務での注意点

本件のように子会社等への「業務委託費」が、税務調査で法人税法上の「寄附金」と認定されるというトラブルは非常に多く見られるので、まず一般的な注意点をまとめておきます。まず基本的なところとして「業務委託内容を契約書で明確にすること」や「実際に仕事をしてもらったことをきちんと説明するためのエビデンスを用意しておくこと」があげられるでしょう。(子会社等ではない)通常の取引先であれば、トラブルに備えて契約書を細かくチェックしたり、成果や進捗の報告を頻繁に要求するのに、相手が子会社等だと何となく放置してしまうということもつい起きてしまいがちです。子会社等であっても、通常の取引先と同じように扱うという感覚を持ちたいところです。次に「報酬の適正性について説明できるようにしておく」ということです。こちらも通常の取引先が相手だと、見積の明細をやたらと細かくチェックしたり、全力でディスカウント交渉をするのに、相手が子会社等だと何となく適当に報酬を決めてしまったという経験のある会社も少なくないのではないでしょうか。とは言うものの、ではいくらが適正な報酬なのかと聞かれると、ハタと困ってしまうところです。色々な仕事があるので一概には言えませんが、例えば子会社に依頼する仕事と同じような仕事をしている大手企業があって、そこが報酬体系や単価を一般公開していればそれを参考にしてみるという方法が一つのアイデアとしてあるでしょう。あるいは業界の専門誌や新聞、書籍などに相場のデータが載っていれば、それを参考にしてみるというのもありではないでしょうか。そのようなものがなければ自社でその仕事をやったと仮定した場合の人件費コストなどを計算し、そこから一定割合をディスカウントした金額としたなどの説明も、計算が合理的に行われていれば有用な説明になると考えます。 

また前述の「租税特別措置法66条の4(国外関連者との取引に係る課税の特例)」という特別のルールにも注意が必要です。業務委託などの取引の相手方が外国にある子会社等である場合「寄附金」と認定されると通常よりも不利な取り扱いを受けますから、一層慎重な対応が必要になります。またその他にも100%の資本関係がある会社間の「寄附金」については「グループ法人税制」という、また別の特別のルールが存在するなど「寄附金」を巡る税務は複雑な仕組みになっています。問題が発生しないように細心の注意が必要です。