令和4年12月のKPCレポートは「国外財産調書」より先に「修正申告書」を提出してしまったがために「過少申告加算税」が課されてしまった平成29年9月1日裁決事例について解説していきます。提出の後先だけで税負担が変わってくるというのもおかしな話ですが、税はあくまでも法令に沿って判断されてしまうためこのような問題が発生することがあります。
1.事案の概要
A氏は平成26年分の所得税の「確定申告書」を法定申告期限である平成27年3月16日までに提出しました。ところがA氏は後日になって国外に所有している「預貯金」及び「株式」から生じた「預金利子(利子所得)」及び「株式貸付料(雑所得)」を「確定申告書」に記載していなかったことに気がつき、平成27年8月31日に自主的に「修正申告書」を提出しました。ところがさらに後日になってA氏は、これらの国外に所有している「預貯金」及び「株式」について「国外財産調書」を提出する義務があることに気がつき、平成27年9月14日にこちらも自主的に提出しました。
これに対して所轄税務署はA氏に「過少申告加算税」の賦課決定をしました。A氏は、自主的に「修正申告書」及び「国外財産調書」を提出した場合には「過少申告加算税」は課されないなどと主張したため争いになりました。
2.「修正申告書」と「過少申告加算税」
ここまでにいくつか専門用語が出てきたので簡単に解説します。最初に「確定申告書」と「修正申告書」の違いについてです。どちらも税の「申告書」であることには変わりありませんが「確定申告書」というのは法定申告期限(=法律で定められた申告期限のこと。例えば所得税の場合、土日を挟むことなどがなければ翌年3月15日)内に提出されたものを言います。一方で「修正申告書」というのは「確定申告書」を提出した後に、計算ミスなど何らかの原因で税額を誤って少なく申告していたこと(以下「過少申告」といいます)に気がついたような場合に、正しく作り直して再提出される「申告書」とイメージしてください。
つまり「修正申告書」が提出されたということは「過少申告」があったということを通常は意味することになります。「過少申告加算税」というのは、このような場合に課せられるペナルティのようなもので、基本は「新たに納める税額」の10%になります。例えば所得税額を300万円として「確定申告書」を提出したものの、実は計算ミスがあり正しくは500万円であることに後日になって気がついたため「修正申告書」を提出したとします。この場合「新たに納める税額」は500万円-300万円=200万円ですから「過少申告加算税」は「200万円×10%=20万円」となるというイメージです。
しかしこの「過少申告加算税」は税務調査と関係なく自主的に「修正申告書」を提出したような場合は軽減されることがあります。「修正申告書」を税務署から「税務調査の通知」(=「税務調査に入りたいので日程調整をお願いします」という税務署からの電話連絡とイメージしてください)がある前に提出すれば基本的に「過少申告加算税」はかかりません。また「税務調査」の通知があった後でも「更正の予知」の前に提出すれば基本的に5%で済みます。「更正の予知」というのは実に難しい専門用語ですが、税務調査が入って担当調査官から具体的に「ここの計算間違っていますよね」という指摘を受けることとイメージしておけば良いでしょう。
このようなルールが設けられている理由について、複数の判例では「納税者の自発的な修正申告を奨励することを目的とする」と述べられています。計算ミス等に気がついた場合などに皆が自主的に「修正申告書」を提出すれば、国としてはわざわざ苦労して税務調査に入らずとも税収が確保できますから、そのインセンティブを与えていると考えれば納得でしょう。
3.「国外財産調書」と「過少申告加算税」
では次に「国外財産調書」について説明していきます。「国外財産調書」とは国外に時価5,000万円を超える資産(以下「国外財産」といいます)を所有している個人に、毎年その国外財産の一覧を税務署に提出するよう義務付けられているものとイメージしてください。平成25年12月31日時点に所有している「国外財産」からスタートした比較的新しい制度で、国に自分の資産内容について監視されているようだと富裕層の間ではすこぶる評判の悪い制度です。
そしてもし「修正申告書」を提出するような事態になった場合、この「国外財産調書」が「過少申告加算税」に影響してくることがあります。例えば今回のA氏のように「過少申告」の原因となった資産が「国外財産」であった場合、その「国外財産」について記載のある「国外財産調書」が提出されていれば「過少申告加算税」は本来の額からマイナス5%になります。ところがそうでない場合(「国外財産調書」が提出されていなかったり、提出はされているが記載がないような場合)は「過少申告加算税」は逆にプラス5%となってしまうのです。少しわかりにくくなってきたので「修正申告書の提出時」及び「国外財産調書の記載の有無」と「過少申告加算税の税率」の関係を図表にまとめました。
図表:「修正申告書の提出時」及び「国外財産調書の記載の有無」と「過少申告加算税の税率」の関係
修正申告書の提出時 | 国外財産調書に記載有 (マイナス5%) |
基本 | 国外財産調書に記載無 (プラス5%) |
---|---|---|---|
税務調査の通知前 | 0% (A氏主張) |
0% | 5% (税務署主張) |
税務調査の通知後、更正の予知前 | 0% | 5% | 10% |
税務調査による更正の予知後 | 5% | 10% | 15% |
※この他にも「新たに納める税額」が当初の申告納税額と50万円とのいずれか多い金額を超えている場合、その超えている部分についてはさらに5%加重されるなど「過少申告加算税」には他にもいくつか細かいルールがありますが本稿では説明を省略します。
4.A氏と税務当局の主張
さてこれらの専門用語の意味が大まかに頭に入ったとして、A氏の事案を見て行きましょう。時系列について再確認するとA氏は「修正申告書」を平成27年8月31日に提出し、そこから約2週間遅れの平成27年9月14日に「過少申告」の原因となった「国外財産」の記載のある「国外財産調書」を提出しています。A氏は「税務調査の通知」などは全く受けていませんから「修正申告書の提出時」も「国外財産調書の提出時」も「税務調査の通知前」です。このためA氏は上記図表で言うところの「税務調査の通知前」と「国外財産調書に記載有(マイナス5%)」のところに当てはまるため「過少申告加算税」は0%であると考えたのです。ところが税務当局は「過少申告」の原因となった国外財産の記載のある「国外財産調書」が提出されているかどうかは「修正申告書」を提出した時点(つまり平成27年8月31日の現況)で判断するものであるという趣旨の主張をしたのです。そして「修正申告書」が提出された平成27年8月31日の時点ではまだ「国外財産調書」が提出されていないということで、上記図表でいうところの「国外財産調書に記載無(プラス5%)」のところに当てはまるから5%の「過少申告加算税」を課してきたというわけです。
さてどちらの主張が正しいのでしょうか。
5.国税不服審判所の判断
ここで思い切って、国税不服審判所の裁決文の抜粋をそのままのせます。目が疲れたくないという方は斜め読みしていただくだけで十分です。
国送法第6条第4項は、「提出すべき国外財産調書が提出期限後に提出され、かつ、修正申告等があった場合」と規定するところ、法令用語の「かつ」は、①「及び」や「並びに」と同様、併合的連結のための接続詞であり、「及び」や「並びに」よりも大きな連結のために用いられるほか、②形容詞句を強く結び付けて一体不可分の意味を表す場合や、③行為が同時に行われることを必要とする加重的要件の意味を表す場合にも用いられる文言である。
この点、国送法第6条第4項で用いられている「かつ」を、上記(イ)の②又は③の意味合いを有するものと解すれば、自主修正申告書の提出時点で国外財産調書が提出されているときに同項の規定が適用されると考えられるところ、この考え方は、国外財産調書が提出期限後に提出されていることをその前提とし、それ以後に修正申告書が提出された場合に初めて同項の規定の適用の可否を決すると解するものであるから、加重措置の適用の可否は国外財産調書の提出の有無によって決せられることとなるのであって、上記(1)の軽減加重措置の趣旨及び同項の規定の趣旨と整合するものといえる。
そして、国送法第6条第4項の規定は、国外財産調書が提出期限内に提出されたものとみなして軽減加重措置を適用する旨規定しているとおり、加算税の課否を判断する場面において初めて適用される規定であること、すなわち、修正申告書の提出があった場合における国外財産調書の取扱いを定めた規定と解されることからすれば、同項は、修正申告書の提出があった場合において、国外財産調書が提出されていることを要件として規定しているものと解するのが相当である。
さて皆さん、意味がわかりましたでしょうか。これを読んで理解できたという人は、裁判官の経験のある弁護士や法律学者などを除けば、よほど国語力の高い方だと思います。多くの人は何が何やらチンプンカンプンなのではないでしょうか。しかしここで国税不服審判所が言いたいことは一言で説明できます。それはズバリ「法令にそう書いてあるから、とにかく『過少申告加算税』はプラス5%なんだ(だから黙って払いなさい)」ということです。そのことをわざわざ「及び」や「並びに」などの条文の読み方まで示してご丁寧に(とてもわかりにくく)説明してくれているというわけです。
一応、もう少し補足しておきます。国税不服審判所は「国外財産調書」の記載の有無で「過少申告加算税」が5%増えたり減ったりする制度の目的について「・・・国外財産調書の適正な提出を確保する目的で、適正な国外財産調書の提出に向けたインセンティブとして設けられた措置であり、飽くまで国外財産調書の提出を基軸とし、これを適正に提出した場合には加算税を軽減する一方、適正に提出しなかった場合には加算税を加重するものである」とも述べています。言うなればこの制度の目的は「適正な国外財産調書の提出に向けたインセンティブ」を皆に与えることであるというのです。これを前述した「税務調査の通知」や「更正の予知」前に「修正申告書」の提出があった場合に「過少申告加算税」が軽減される制度と比較していきます。この制度の目的は、前述のとおり「自発的な修正申告を奨励すること」でした。つまりその目的が「修正申告書」の提出であることから、目的が達成された「修正申告書」の提出時点を中心に考え、その時点が「税務調査の通知」や「更正の予知」の前であれば「過少申告加算税」を軽減するというイメージです。しかし「国外財産調書」の話については、その目的はいわば「適正な国外財産調書の提出」でありますから、目的が達成された「適正な国外財産調書」の提出時点を中心に考え、それが「修正申告書」の提出前であれば「過少申告加算税」を軽減するというイメージになるというわけです。従ってA氏については「適正な国外財産調書」の提出時点が「修正申告書」の提出前でなかったことから「過少申告加算税」を課されたというわけです。
しかしこの結論は非常にわかりにくいだけでなく、制度に少しおかしな部分があるように思えます。「適正な国外財産調書」の提出時点を中心に考え、その時点で判断するというのはわかるのですが、その時点が「税務調査の通知」(あるいは「更正の予知」)前であるかどうかで「過少申告加算税」について判断すれば良いのではないでしょうか。そのような制度にすれば「修正申告書」も「国外財産調書」もとにかく「税務調査の通知」前に提出すれば「過少申告加算税」は基本的にかからないのだということで、専門家ではない普通の人にもとてもわかりやすくなります。もちろん色々と専門的な理屈があるのはわかるのですが、普通の人が聞いてなかなか理解や納得ができないような複雑な制度というのは、作る側の能力レベルに問題があると私は思います。
しかし残念ながら日本は法治国家です。実際に法令の中には何かおかしな(=どこか矛盾があるような)制度となっているようなものが多く存在しています。それでも条文にそう書かれている以上は、最終的にはそこで判断されるのが税務です。何かの判断をする時には思い込みやにわか知識などに頼らず、きちんと法令をこまめに確認するということが大事ということになります。
以上