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令和5年4月のKPCレポートは、台湾への輸出販売代行を行っていた会社が消費税の還付申告をしたところ認められず、それどころか「事実を仮装」したとして「重加算税」まで賦課された令和3年12月23日東京地裁判決について紹介していきます。

なおいつものように本レポートは公認会計士、税理士などの専門家向けではありませんから、内容が難解にならないように専門用語の使用を極力避け、かつ細かい説明を省略している部分が多数あります。また数値例はわかりやすいように、消費税及び地方消費税(以下「消費税等」といいます)の税率は一律10%であるとして作成しています。より正確な理解をしたい方は必ず個別に相談するようにしてください。

1.本件の概要

A社は平成9年4月9日に設立された繊維・玩具・衣料品等の輸出入・販売、それらの物品の輸出入の代行等を目的とする日本国内に所在する会社です。またB有限公司は台湾に所在する会社です。

A社とB有限公司は,平成21年10月15日付けで輸出業務の手配及び手続に係る契約を締結しており、契約書には「日本で購入した商品の集荷,輸出梱包,配送の業務」「輸出書類の作成,輸出通関の手配」の他「税還付申告」という項目がありました。

2.取引の流れと経理処理

次にA社とB有限公司が行っていた取引の流れと、A社の経理処理について見て行きます。

第1段階:台湾で衣料雑貨の小売業等を営む複数の事業者(以下、総称して「本件各台湾事業者」といいます)が来日して、日本国内の複数の衣料品の卸売業者など(以下、総称して「本件各日本卸売業者」といいます)から衣料品等の商品を買い付ける。
第2段階:「本件各台湾事業者」が買い付けた商品は,通関手続きなどを経て台湾へ輸送される。
第3段階:台湾に到着した商品はB有限公司を経由して「本件各台湾事業者」に配送される。

これについて少し補足します。A社がこの取引の流れの中でどこで登場するかというと、第1段階の買付けの時に、その商品は「本件各台湾事業者」ではなくA社が仕入れたことになっていたのです。そしてA社は自身で仕入れたその商品を、仕入値と同額で台湾のB有限公司に輸出し、B有限公司から「本件各台湾事業者」は最終的に仕入れたということになっていたのです。それにしても彼らは、なぜこのような面倒なことをやっていたのでしょうか。実はこのような事実関係を前提とする経理処理が認められれば、A社で多額の消費税等の還付が受けられるのです。

3.A社で消費税等が還付になる仕組み

次にA社で消費税等の還付を受けられる仕組みについて見て行きましよう。この仕組みは非常に複雑ですので、皆さんが理解しやすいように実際の判決文の数値例ではなく、簡単な仮の数値例を用いてイメージで説明していきます。

まず「本件各台湾事業者」が1年間に日本で買い付けた商品の額は消費税等抜きで1億円であったとします。そうすると「本件各日本卸売業者」に支払うお金は1億円に消費税等1,000万円を上乗せした1億1,000万円になります。

次にこの仕入れを行ったのは「本件各台湾事業者」ではなくA社であり、A社は仕入れた商品を、消費税等込みの仕入値と同額の1億1,000万円でB有限公司に輸出したとして経理処理します。この場合、A社は売上が1億1,000万円、売上原価が1億1,000万円ですから、収支も損益もプラスマイナスゼロになります。

次にA社の消費税等の計算がどうなるかを考えてみます。まずA社の1億1,000万円の売上は消費税法で言うところの「輸出」に該当するため、消費税等は「免税」になる、すなわちA社は1円も消費税等を納付する必要はありません。一方で仕入時に「本件各日本卸売業者」に上乗せして支払った1,000万円の消費税等については、その全額について「仕入税額控除」が受けられ還付になるのです(※消費税の「免税」と「非課税」の違いなどはかなり専門的なので、この説明でピンと来ないという方は個別に相談するなどしてください)。

まとめるとこのような経理処理が認められれば、A社の預金通帳には消費税等の還付額1,000万円がチャリーンと税務署から入金されるというわけです。そしてこの1,000万円のうち200万円を自身の「取り分」としてA社はとり、残りの800万円を台湾のB有限公司に支払うというようなことをやっていたのです。B有限公司はここから恐らく自身の「取り分」をとるでしょうから、仮にそれを100万円とすれば、700万円が最終的に残ります。この700万円は「本件各台湾事業者」に配分されていたのです。

4.税務当局がA社の経理処理を認めず

ところが税務当局はこのようなA社の経理処理を認めなかったのです。まず税務当局が税務調査の中で把握した事実関係のうち重要なものについていくつか紹介すると以下のとおりとなります。

①「本件各台湾事業者」は,日本において商品を買い付けるに当たり,A社やB有限公司から指示を受けることはなく,任意の時期に来日し,自らの意思で購入する商品やその数量を決定しており,A社は「本件各台湾事業者」がどの商店でいかなる商品をいかなる値段・数量で買ったかについて,本件各商品の輸出後に本件各台湾事業者からB有限公司を介して本件各領収証を受け取るまで,知る機会はなかった。
②「本件各台湾事業者」は,本件各国内事業者の店舗で買付けを行う場合,その商品代金は自らその場で現金又はクレジットカードで支払っていたところ,その原資については,資金不足の場合にB有限公司から借り入れることはあっても,基本的には自己資金で賄っていた。
③B有限公司のある従業員は,A社は消費税等の還付を行っている会社であると聞いていた。また,台湾人で「本件日本国内卸売事業者」から買付けを行っていたXは,A社の名前で領収証の発行を受ければ日本で支払った消費税が返ってくると認識しており,A社の名前は領収証の宛名にしているので知っていたが,それ以外はA社について全く知らなかった。

以上の実態から税務当局は「本件各台湾事業者」が自身で商品を日本で買い付けて台湾に持ち帰っているだけで、A社は仕入れもしていなければ売上も存在しないと考えたのです。そしてA社の「取り分」200万円は、A社が日本における種々の雑用的なものをする報酬、すなわちA社は「本件各台湾事業者」のために、この消費税等の還付申告手続の他、トラックの手配などをしていたことがあったようなので、そのようなサービスに対する対価であるとしたのです。

では税務当局の考えが正しいとしたら、消費税等の計算はどのように変化するでしょうか。A社には「本件各台湾事業者」から報酬として受け取った200万円があり、これは「課税売上高」となる、すなわち消費税等がかかりますから、その10/110である18万円程度の消費税等を納付する必要があるということになります。しかしA社は現実には1,000万円の還付申告をしています。これについて税務当局は本来は18万円程度の消費税等の納付をしなくてはならないのに、A社は商品を一旦自身が仕入れて輸出したと「仮装」すなわちウソの経理処理をして1,000万円の消費税等の還付を不正に受けようとしたとして還付を認めなかっただけでなく、多額の重加算税まで課したのです。

これに対してA社は、税務当局の主張は全てが被害妄想的な作り話でデタラメであるという趣旨の主張をして裁判を起こしてきたというわけです。

5.判決

最後に東京地裁の判決について見て行きましょう。説明するまでもないかもしれませんが、上記の事実関係から見ると、A社が商品を仕入れて輸出していたという主張はかなりの無理があると言わざるを得ません。東京地裁は「以上のような本件各課税仕入れに係る買付け及びその後の状況,売主である本件各国内事業者の認識,本件各基本契約の内容及び消費税等の還付に関する関係者の認識等に照らせば,本件各商品の買付けは本件各台湾事業者が自ら買主として行ったものであり,原告は,その輸出代行業務や,自らの名義で消費税等の還付のための申告を行うことによる消費税等の還付の手続の代行等の業務を行うにすぎないものであったと認められるから,本件各課税仕入れの主体が原告であったと認めることはできない。」などとし税務当局の主張を全面的に認めました。

6.気持ちはわからなくもない

しかし本件についてよく考えると、こんなことをしなくても「本件各台湾事業者」がそれぞれ個別に日本で消費税等の申告をすれば還付を受けることができたのです。例えば「本件各台湾事業者」の1社であるC社が年間で2,000万円の商品を日本で仕入れ、消費税等を上乗せした2,200万円を「本件各日本卸売業者」に支払い、所定の手続きを経てそのまま台湾へ持ち帰り、経理処理も自身で仕入れたものとしたとします。このC社の取引は消費税法上の「国外移送」となり「不課税」となりますから消費税等の納付をする必要はありません。一方で「消費税課税事業者選択届出書」を提出して、いわゆる消費税の「課税事業者」となれば、「本件各日本卸売業者」に上乗せして支払った消費税等200万円の還付は受けられるのです(「輸出」と「国外移送」の違いは極めて専門的なところですので、詳細は省きます)。にもかかわらずどうして「本件各台湾事業者」はA社で仕入れたことにするなどという面倒なことをしたのでしょうか。

これは実際に「本件各台湾事業者」の立場にたって想像してみれば何となくその理由は見えてきます。「本件各台湾事業者」には小規模な企業も多かったようですので、最低限の日本語は出来たとしても、日本人でも理解が大変な消費税等の申告を自身でするのは困難だったのではないでしょうか。しかも日本の税理士に依頼すると言っても、それぞれの還付額は決して多くないですから、税理士報酬でほとんど消えてしまうことも考えられます。そうするとその辺の面倒な還付手続をA社が一括で引き受けてくれるということを聞いて、あまり深く考えずに全てを任せてしまったのでしょうか。我々日本人だって英語だけでも四苦八苦しているのに、まして英語圏ではない中国や台湾、フランスやドイツのような国で同じような状況になったら、深く考えずに誰かに全てを任せたくなるのではないでしょうか。

しかしそうは言っても今回のA社の経理処理は明らかに異常ですし、消費税法に当てはめるとどうしても上記のような結論にしかならないでしょう。最近は消費税等の税務調査がかなり厳しくなっており、このような事実関係の整理は非常に重要になっています。迷うような場合は早めに然るべき専門家に相談するなどすることが重要です。